ウルフの言葉に、ひくりとサイファが震えた。愕然とウルフを見やる。その間にも抑えきれない快楽に眉根は顰められていた。
「お師匠様がしてあげなよ。せっかくこんなことしてるんだし、あんたに抱かれてるサイファが見たい」
 理解できないとばかり見上げてきたサイファに聞かせるよう、もう一度ウルフは言う。リィもまた、似たような顔をしていたけれど。
「意地張りやがって。まぁ、いいか。おいで、可愛い俺のサイファ」
 譲るというのならば遠慮はしない。リィの言葉にしない宣言にウルフは答えない。譲ったつもりは毛頭なかった。
「え……リィ……どういうこと。待って――」
 いまだ半ば呆然としたままのサイファだった。このぶんではあとで完全な理解が及んだとき、ウルフと二人並んで説教される羽目になりかねない。そう思ったけれどそれもまた楽しいかもしれない、ふとそんなことを思う自分にリィは笑う。
「待たないよ、可愛いサイファ」
 にこりと笑ったリィにサイファは口をつぐんだ。返答が期待できないからではなく、ウルフが与えた愛撫のせい。
「強情だな、可愛いサイファ?」
「……だって!」
「俺には素直に可愛い声、聞かせるのになぁ?」
 あてつけのようウルフに向けて言えばサイファが唇を噛みしめる。サイファの足の間でウルフもまたくつくつと笑っていた。
「笑ってるんじゃねぇぞ、若造め」
 言いつつリィはサイファを抱え直す。太腿の下に両手を差し込み、さらに押し広げてはウルフの目にさらすよう。
「――リィ!」
 気づいたサイファが鋭い声を上げ、そして顔をそむける。リィには、聞こえていた。サイファの速まった鼓動が。その心が上げた嬌声が。
「ま、諦めて付き合え」
 それほど嫌でもないだろう、恥ずかしいだけだろう、心の中で言えば返ってくる声。恥ずかしいだけとはなんだと文句を言われてもリィは応じなかった。
「いいか、若造?」
「いいんじゃない? もうほぐれてるし」
「――そういうことを口に出すな、この馬鹿!」
「だってほら、こういうことなら、俺とのほうがいっぱいしてるし。初心者のお師匠様に教えるのは俺の役目かなーと思ってさ」
「誰が初心者だ誰が」
 小声で呟くリィにサイファが体を固くした。馬鹿なことをほざくな、とばかりウルフがリィを見上げる。それに片目をつぶって見せたけれど、リィは内心ではこの上なく詫びていた。
「恥ずかしいことしてごめんな、可愛い俺のサイファ」
 けれど言葉ではそういうのみ。サイファには、それでわかってもらえる。そんな奇妙な信頼感。かつて幼かった子供に、いまはこれほどの信頼を寄せることができる。それが幸福だ、とリィは思う。
 そのリィの思いこそがサイファの強張りを解いて行く。ウルフには伝わらなかった精神の声。けれど感づかれてしまった心の動き。サイファの眼差しがウルフに向けられ、ふと和んだ。
「こんなこと、俺がしたんだったら絶対にあんた魔法叩き込むよな。ほんとお師匠様が羨ましいよ」
 ぼやくウルフにサイファの口許が緩む。ウルフがわかっていて、そんなことを言っていると感じないはずもない。こんな目にあわされてもなお、だからこそサイファは充足感に満たされて行く。
「――ひ」
 その隙を狙ったようだった。リィがサイファの体を持ち上げては、落とす。腰の上に。ゆっくりと、ウルフに見えるように。つるり、そこを指で撫で上げられてサイファは息を飲む。
「あんたのここに、お師匠様が――って! 痛いから、サイファ! ここで蹴らないでよ!」
「蹴られるようなことを言うお前が――あぅ」
 普段の調子で怒鳴ろうとして、そして果たせずサイファは眉を寄せる。喉をそらし、背をそらす。リィの膝の上に抱えられたサイファはリィのすべてを飲み込んでいた。
「ま、それもそうだしね。ほら、サイファ。蹴っていいよ?」
 ふふん、と笑ったような気がしてサイファはウルフを見やる。足の向こうでウルフが口許だけで笑っている。ちろりと唇を舐め、サイファに目を向けたまま、膝にくちづけた。リィに押し広げられたままの膝に。
「あ……」
 リィが揺すり立てたせいではなかった。自然に漏れてしまった声。羞恥に身を焼くより先、今度はリィに突き上げられた。
「や……リィ……!」
「ほんとに嫌だったらやめるんだけどなぁ、お師匠様。でも嫌じゃないだろ、可愛い俺のサイファ?」
「それ、止めて――!」
「あぁ、お師匠様? そうかそうか、お前でも妙に背徳的な気分になるか、可愛いサイファ?」
「リィ!」
 くつくつと笑う声が耳元で。それなのに、更なる愛撫は足下から。身をよじってよじってねじ切れてしまいそうなほどの、快楽。熱い溜息がサイファの唇から漏れてはリィに吸われた。
「お前も眺めてるだけってのは芸がないだろうが。サイファを楽しませろよな」
「この状況でどうしろって? なにがどうなってるか、話してあげたらあんた、楽しい?」
「――そんなことしたら、あとで、再起不能なまでに叩き、のめす――!」
「だよな」
 もっともだ、とうなずくウルフが笑う、その唇の動きをサイファは自身に感じた。仰け反れば、リィをより深く感じた。
「だからちょろちょろ触ってないでだな、ほらよ」
 言ってリィはサイファの足を閉じさせた。それだけでほっと息をつく思いだったサイファはリィが何を言ったのかわからない。
「よくそういうこと、思いつくよね。最低だ、あんた」
「サイファが楽しけりゃそれで万事問題ねぇだろうが」
「そりゃそうだけどさ。――だからサイファ、提案したのは俺じゃないからね。怒るならお師匠様にしてよ」
「実行するのはお前だがな」
 にやりとしたリィの言葉にウルフが顔を顰めた気がした。自分の足が邪魔でよくは見えなかったサイファだ。尋ねようとリィを振り返りかけたそのとき、ウルフの香油塗れの両手が足の間に差し込まれる。
「なにを――!」
「まぁ、すぐわかると思うよ」
 頼りなげな顔をして、今更そんな顔をしてウルフはサイファを窺う。本当に嫌ではないかと問うようで、サイファはそっぽを向いた。
「ほんとなぁ、お前は若造には甘いよ、可愛い俺のサイファ」
 嵌められたのだとは、すぐにサイファも気がついた。けれどリィのその少しばかり寂しげな声。聞こえた途端に首だけ振り向けてサイファは彼にくちづける。嬉しそうに細められた深い瑠璃色。自分だけのリィ、その色に酔いそうになるサイファが息を飲む。
「な! お前は……なにを……!」
「言ったら怒るくせに、どうして俺に聞くのさ、サイファ」
「それは……だから……!」
「あんたの太腿、柔らかくって、すごく気持ちいいかも」
 ウルフの言葉にかっと頬が熱くなった。身悶えれば、小さくリィがうめく。それにもまた、サイファは煽られてしまう。
 合わせた両足の間、ウルフが自身を差し入れていた。香油に塗れてぬるつくそれが、内腿の薄い肌を刺激する。
「若造、お前だけ楽しむなっての。もうちょっと下だ」
 リィの声に首をかしげたウルフが息を弾ませたまま体をずらす。今度こそサイファは悲鳴を上げた。
「ほら、そこだ」
 耳元でリィが言う。それから伸びてきた手が、サイファ自身に触れる。ウルフにこすられたそこに。押し広げられ、リィに貫かれた場所。ウルフに無体なまでの刺激を与えられた場所。近すぎて、痛いほど。
「あんたの声、やっぱ可愛いな」
 蕩けたウルフに指摘されるまで、サイファは気づかなかった。喉が振り絞るように悲鳴を上げている。どうにかなりそうだった。
 ぐっとサイファの膝を押さえつけ、ウルフは首を振る。腰を進めれば、サイファの上げる声。羨ましいかと言わんばかりにこちらを見ているリィのことも気にならない。
「いまの声は、俺のせいだと思うよ?」
 中に埋められたリィではなく。言えばちらりとリィが笑う。それならば、というのだろうか、抱え直したサイファを半ば膝の上で浮かせ、リィは動きを速める。リィに揺すられたサイファが髪を振り乱し、自らの力でしっかりと足を閉じては仰け反る。
「――待って、サイファ。俺!」
 そんな風にされては。サイファを止めるより先に、リィが意地の悪そうな目をした。抱えたサイファの体をゆっくりと、揺する。両手は彼の太腿を外側から押さえつけ。
「ん……、だから……! あ」
 わかっていても、止められないウルフだった。ぐっとサイファを押さえつけ、眉を寄せては唇を噛みしめる。ウルフが体を震わせたとき、サイファの腹が汚されていた。
「根性なしめ。サイファより先にいくやつがいるかよ」
「……お師匠様のせいだと思うんだけどなー」
「こんな根性なしじゃお前は満足できなかっただろう? 可愛い俺のサイファ。もっと楽しませてやるからな?」
 くたりと寝台に腰を下ろしたウルフはにやにやしながらサイファを見ていた。額に浮かんだ汗を気だるげに拭っては、体を伸ばしてサイファにそっとくちづける。
「サイファももう限界だと思うけどね?」
 言いながらウルフがサイファ自身に触れた。もう悲鳴も上がらない。荒い息だけで、眼差しだけで、リィにサイファは訴える。
「可愛い俺のサイファ」
 耳朶にリィの柔らかなくちづけ。サイファの溜息。転じて彼が鋭く息を吸う。ウルフすら驚いたほどあっという間にリィはサイファを寝台に押し倒す。
「あ……リィ、そんな」
 背後から圧し掛かってくるリィにサイファが首を振っていた。その髪をかき上げて、はっきりと目を合わせてきたのはウルフ。そむける間もなくくちづけられた。
「ちゃんと見てろよ、若造」
「見てるよ、お師匠様」
 頭上で交わされる言葉にサイファは声もなく身悶える。二人がにやりとしたのなど見えもせず。リィが動き出し、すぐにまた何もわからなくなった。




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