ほのかな明かり。かすかな物音。
「なんだろう……」
 物音の正体が気になって目が覚めた。
 それは機械音、だった。
「おはよう、潤」
 よく眠れたようだねぇ。
 なんの邪気もなく笑っているつもりの吉広の笑顔。
 それなのにどうしてか、恐い。恐いけれど惹きつけられずにいられない。
 ぶるり、身震いをして普段より地下室が明るい事に気づいた。
「おや、気がついたかい?」
 コンクリートを打ち放しにした壁が光っている。
 映画みたいだ、潤が思ったのも間違いではない。
「いいものを見せてあげようねぇ」
 そう言って吉広は手元のプロジェクタを操作し始めた。
「え……」
 映ったのは。



 初めはなにかわからなかった。
 ぼうっとした光の中、映し出されたものを理解した時には、まるで背中を殴られたように潤の体は跳ね上がっていた。

『さあ』
 吉広の声が促している。
 なにを。
 思い出すまでもない、あの玩具。
『もっと足開いて』
 注文に素直に応じた自分の姿。
 大きく広げた足の間、中心を片手で握り締めつつ玩具を押し込んでいく。
『うぁ……ぁぁっ』
 悦楽にこんな姿を映されているとも知らず、あえぎ声を上げている、自分。
 赤い布で目隠しされたままの顔がのけぞった。
 ぐちゅぐちゅと、そこがいやらしい音を立てるほどに激しく、玩具を自分の手が操っている。
『ん……あぁっ、はぁっ』

 コンクリートに映った鮮明、とはいいがたい映像が、よけい羞恥を煽る。
 ぞくり、としては無意識に自分の中心を握った。
「え……」
 恥ずかしさに、これからなにをされるのかとの恐怖に、萎えきっているはずのモノは高々と。
「自分のいやらしいところを見て、感じてるなんて」
 不意に言葉を切った吉広の嘲笑。
「イヤラシイ子だよ、潤は」
 哄笑、ともいえる嘲りに身がすくむ。
 それなのに中心だけがどくどくと脈打っている。
「や……」
 力なく言った潤にまた侮蔑の笑いが返り。
「そんなこと言って、まだしっかり握ってるくせに」
 ぴくん、背中が跳ね。
 慌てて握っていた己が中心を離せばそこからとろり、滴が落ちた。
「あっ」
「もう、そんなにしてるじゃないか」
「ちがっ」
「なにが違う? 自分のあえぐところを見せられて欲情してる」
 壁の映像は自分の手で玩具を押し込みよがり狂っていた。
「ほら、あんな恥ずかしい事……してる」
 不鮮明な映像でも、ほんのりと上気した肌に快楽を追い求める汗が光っているのが見て取れる。
 くちゅ。
 ワセリンでぬめったソコに醜悪な玩具が出入りするたび、自分の体が反り返り、あまつさえ。
「よく見てごらん、潤」
 見てはいけない自分の恥部を凝視してしまった潤は思わず壁から目をそらしている。
 吉広の声に、逆らいがたいその声におずおずとまた視線を戻した。
「よく、見るんだよ」
 笑いを含んで吉広が潤の後ろに回る。
「や……っ」
 そう声を上げたのは突然、強引に足を開かされたから。
「まだ残ってる……」
 伸ばしてきた指が潤のそこに、触れ。
 ぬぐわれていないままのワセリンを塗りこめる。
「は……ぁっ」
 冷たい指の感覚。
 触られなれていない部分への急な愛撫に、快楽に慣らされた体は激しい反応を返し。
「い、や……っ」
「なにが?」
 耳元で聞こえた声に肌が粟立った。快感に。
「ほら、潤。あっちのお前はあんなに気持ちよさそうだねぇ」
 声が映像を見ろと促している。
 言われるまでもなく目はすでに離せない。
「もどかしいだろう?」
 言いつつ吉広があいた片手で胸のあたりを愛撫し始め。
「ん……ふぅっ」
「こっちも、勃ってる」
 嗤いながらそっと耳を噛まれた。
「ひぁっ」
「でも足らない?」
 足らなかった。
 映像の自分は自分の手で玩具を操り、思う様の悦楽を貪っている。
 ひくひくといやらしげにうごめくソコまでもが目に入る。
 咥えこんでねぶる、貪欲なソコ。
 玩具とはいえ充足感のあるものを呑みこみ、快楽を追っている、ソコが。
「やぁぁぁ」
 いや、なにが?
 違う、そうではない。
「して欲しいんだろう、潤?」
「……欲しいっ」
 映像の自分に嫉妬した。
 半端な刺激ではなく、もっと、もっと。
「素直はいい事だね」
 腕の中でのたくる潤を胡座の中に抱えこみ、さらに大きく足を広げさせる。
「んぁ……んっ」
 くちゅり。
 さっき映像の中で聞いたばかりの音が生身の自分の体から、する。
 その事が妙に興奮させた。
「指、挿れて……」
 吉広に強制されることなく、自分からそう言った。
「どこに?」
 嗤う声。
「……ココ」
 熱に浮かされたように潤は自分の手で吉広の指を導く。
「はぁ……っ」
 冷たい指。吉広の指。
「あ、あ、あ……っ」
 肌触りのいい彼のシャツが背中に触れている。
「それから?」
 窮屈な姿勢のまま吉広が背中から離れ、また戻ってきた時には温かい、肌。
「あ……っん」
 動揺した挙句、指を締め付けてはソコから刺激が広がった。
「か、かき混ぜて……」
「こう?」
「うあ……ぁっ」
「足らないんだねぇ。潤は本当に……」
「いやらしい?」
「そう。いやらしいねぇ」
 笑う声。ぬくぬくとした肌にいまは恐怖感が薄れている。
「もう一本、指、挿れて」
 だからそう、ねだった。
「指じゃ、我慢できないくせに」
 嘲いながらも吉広がそこに突き立てた指を増やし、押しこむ。
「あっ……あ……っ」
 快楽に、吉広の腕にすがりつき。
「あ……イイ……っ」
 のけぞった顔をつかまれ。
「潤」
 呼ばれた声に教えられてもいないのに潤は舌を差し出し、吉広のそれと絡めあわせる。
「ん……」
 軽く舌を甘噛みされてまた背をそらした。
「ご褒美だ……」
 そう言って吉広は
「ひぃぁぁぁっ」
 中心を指で嬲り始める。
 直截な悦楽が体中を駆け巡り、ソコから指が掻きだす刺激も限界近い。
 びくびくと痙攣する体を吉広は腕の中に押さえつけ。
「だめ……だめ……」
 うわ言めいた喘ぎをもらしつつ吉広の首筋に顔を埋めれば男物のコロンの香りがした。
「なにがだめ?」
「……イっちゃうっ」
「指で?」
「やだっ」
「じゃあ……どうして欲しい?」
「……アンタのが、欲しいっ」
 熱くて、血の通った、玩具ではない、モノ。
 自分のソコに突き立て、引き抜いては快感を抉り出される。
 想像しただけで震えた。
「なら、準備はお前がするんだね、潤?」
 至近距離で見つめられたままかたどられた笑いに、ぞくぞくする。
「するから……するから、欲しい」
 もうソコからもたらされる悦楽は終止点が近い。
「はぁ……っんぁ」
 身をよじったとたん、それが堪えがたい。
「潤?」
 わかっていながら吉広はわざと問う。問いながら指を潤の中で動かし。
 熱い中が快楽に収縮してはうごめく。
 指に絡みつく。
「だ、だめ……あ、あ、あ……っイク……イっちゃう……ぁぁぁっ」
 吉広の体にしがみつき、腰を突き上げ。
 咥えこまれた指に快感の痙攣が伝わってきた。
『あぁっ、イク……イク……ぅぅぅっ』
 映像の中の潤も時を同じくして己が白い粘液に自分の体を汚していた。




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