あれからどれほど経ったのか、わからない。
 体力もずいぶん回復しているようだったからだいぶ時間が経っていることだけは間違いなさそうだ。
 暖かい風呂に入れられ、もてあそぱれながらも一夜、柔らかいベットに眠らされ。
 目が覚めてみればまたあの地下室だった。
「地下室、だよな……」
 急に不安になって潤はつぶやく。
 声が反響して少し、安心した。
 相変わらず潤は縛められていた。それでも初めほどにはつらくない。たぶん幾分ゆるく、縛ってあるせいだ。
 もともと部屋にあったものかきちんとシーツまで敷いたマットの上に転がされているせいでもある。
 かちゃり。
 重たいドアが、開いた。
「おはよう、潤」

「さぁ今日はどうしよう?」
 そうやって少しだけ首を傾げる吉広はいっそあどけなくさえある。
 もちろんあどけない、という年ではなかったが。
「これ、ほどけよ」
「だめだね」
「もう逃げないから……」
 言ったとたん吉広が声上げて笑った。
「潤、潤。お前はそんな風に思ってたのかい?」
 さも、おかしげに。
「え……」
「逃げるなんて初めから思ってやしない。そもそも逃げられるわけがない」
「じゃあ」
「……ただそうやって縛られてる屈辱的なお前を見るのが好きなだけさ」
 そう、嗤った。
「てめ……ッ」
「潤」
 すぅっと。
 彼は潤の側に寄り。
「ひっ」
 縛めからのぞいている胸の先端を爪で弾いた。
「裸でいやらしい紅い紐で縛られて。とてもそそるよ、潤」
 言葉にか刺激にか上気した耳を軽く、噛む。
「あ」
「ほら、これだけでこっちまで……」
「やめっ」
 慣らされて、すでに勃ちあがってしまったものを吉広の指先が弄る。
「なにが?」
 意地悪く言いつつくるり、先端で指が円を描いた。
「は……」
「もう……にじんでる」
「や……ん」
 拒絶の言葉を吐きながら、潤は自覚している。
 腰が前に突き出て、いる。
 指を刺激をもっと求めて、欲しがっている。
「ほら」
 親指と人差し指が作った輪で吉広に中心を玩ばれては背中がしなる。
「ふぅん……」
 突然つまらなそうな声を上げて吉広が体を離した。
 いつ縄目をほどいたものか、紐がはらりと取れては束縛がなくなった。
「な、なに」
「あんまり気持ちよさそうで……つまらない」
 にやり、非道な笑みが浮かぶ。
「だから自分でしてごらん」
「え……」
 とろり、快楽に曇ったままの頭が一瞬なにを言っているのか判断できなかったのか聞き返し、そして青ざめた。
「したこと、ないわけないだろう?」
 だから、ここでして見せろというのか。
「や、やだッ」
「認めない」
 それだけを言っていつか潤が縛られていた椅子に腰かけ、ゆったりと足を組む。
「さぁ」

 じりじりとした焦燥。潤はそんな目で彼を睨み据え、結局負けた。
 彼から顔をそむけ、中心に指を伸ばす。
 どうしようもない羞恥に体中が染まっていた。
 指が、触れる。
 ぴくん。のけぞり声がでそうになるのを必死で止める。唇をきつく噛んだ。
「声も聞かせてもらわないと、ね」
 非情な声が降ってくる。
 気にせず続けた。
 どうせしなければならないなら自分の中に没した方が楽だった。
 軽く膝を立て、親指の腹で先端をいじる。すでに先ほどの刺激でそこはぬめっている。容易に指は滑った。
「見えない」
「……っ」
 声に叱咤されもう少し、足を開く。
「もっと」
 声が飛ぶ。
 自棄になって開けるところまで開いて見せた。
 その行為に。
 ぞくり、快感が走り、知らず中心を握る。
「ゆっくりだよ、潤」
 顔をそむけたまま、肯いて行為を再開した。
 軽く左手を後ろについて体を支え。
 右手の指で自分を慰め。
 それを余す所なく見られて、いる。
「ん……」
 指が先端のくぼみをなぞる。もどかしいけれど強い刺激に腰が揺れ。
 掌で先端だけを擦ればもう理性もなにもない。
「はぁ……っ」
 くちゅり。音さえ漏れるほどそこが快楽にじれている。
「気持ちイイのは、そこだけじゃないだろう?」
 ささやくような、声。
 声に促されて指がのびる。
 ソコに、後に。
「んっ」
 潤いのないソコに指をもぐらせるのはいくらなんでも不可能で。そうっと入り口だけをなぞった。
 それだけでとろり、腰が砕ける。
 自分の指を忘れた。これはそう、吉広の。
 ぽすん。
 音がしてそちらを見やればいつかの小壜。
 あの屈辱的な、ワセリン。
 そんな事はどうでもよかった。
「使え」
 そう言った吉広の声も聞こえていなかった。
 もどかしげに蓋を開けたっぷりと指にとる。
「あ……んっ」
 冷たい薬の刺激にぴくり、体がすくみ、弛緩した時には指の先が体の中にもぐりこみ。
「……んっ、あ」
 もっと奥。もっとイイところ。
「潤」
 呼ばれた。
「こっち向いてごらん、潤」
 一瞬にして正気に返る。
「ひっ……や、やぁ……ぁっ」
 男の目の前で、男の自分が。
 浅ましく自らを慰める行為に没頭するだけでなく、体の中に指まで、埋めて。
 その指がまだ中で蠢いて、いる。
 止まらない。
 違う生き物がもぐりこんでように指が意思に反して悦楽を送り続けている。
「や……んっ」
 羞恥に情けなさにきつくしまったソコがまた、快感を呼ぶ。
「恥ずかしい? 潤」
 目をそらし首だけを肯きの形に振った。
 吉広は嗤っている。
「じゃあ、こうしてあげよう」
 立ち上がり、近づく気配に指を止めたいのに、止まらない。
「潤」
 涙か汗か。ぐちゃぐちゃになった潤の顔にふわり、柔らかいものが触れ視界が暗くなった。
「目隠ししてあげよう」
 ぞくり。
 快楽か恐怖か。
 なにかわからないものが背筋に走った。




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