「さあ次はどうしようか?」
「次ってなんだよ、放せったらっ」
 潤が暴れるたびに赤い布がきれいなドレープを作る。彼を拘束している布紐の結び目から垂れたものだった。
 それが白い肌に映えては扇情的ですらある。
「もう気が済んだだろっ」
 ぎし。
 音が鳴るほど椅子をきしませる、潤。
「気が済んだ? 馬鹿な。まだまだ、だね」
 一瞬浮かんだ吉広の酷薄そうな笑みに潤の顔がこわばった。
「あぁ……安心していい。これで血を見るのは嫌いな方でね」
「な……っ」
「意識をなくしたのを犯して楽しむ趣味もない。どちらかと言えば殴る蹴るも嫌いな方だ」
「ど、ういうこと、だよ」
「そこらのサディストと一緒にしてもらっちゃ、困る。ということさ」
 快楽だけで堕としてペットにする。
 飽きては手放したかつてのおもちゃ。けれど潤はいつまでも飽きることなく
「遊べる」
 そんな気がしている。
 それだけ気にいったのかもしれない。
 だからこそ体に傷をつけることなく快楽だけで堕したい。従順で反抗的なパートナーに、したい。
 ふわり、口元に浮かんだのはなんともいえない優しげな笑み。
 それがどうしようもないほどの寒気をもたらすのはなぜなのか、潤にはわからない。
 わからないと言うならば。
 自分がなぜこんな目に会うのかも、わからない。
 それ以上に
「ただのワセリン」
 で玩ばれ、しかし体は確かに快感を覚えた。
 できることならなにかろくでもない薬だったと思いたい。
 けれど自分の体が確かにあれはただのワセリンだったと告げている。
 男の指が想像もつかない部分に侵入し、それだけでイかされたあの、感覚。
 ぞくり。
 下腹に疼きを覚えて頭を振った。
「ほら……足らないんだろう? 潤」
 一瞬、そこに吉広がいるのを忘れていた。
「若いね」
 たった一言、嘲りのように言われた言葉とともに飛んできた視線。
 視線は潤の下腹に向けられ。
「さっきのこと思い出して……もっと欲しくなった?」
「ちが……っ」
 そう否定しても中心にはもう充分に血がたぎっている。
「ここに……欲しい?」
 するり、吉広の手が腹に伸びてくる。
「や」
 その指が潤の吐いた液体を掬い取っては、その部分に塗りこめた。
 ワセリンと吐いたばかりの精の、ぬめり。
「……っ」
 驚くほど簡単にソコは吉広の指の侵入を許してしまう。
 そしてソコから跳ね上がる、快感。
「違うっ」
 快感ではない、そう否定して身をよじればそれだけその感覚は強くなった。
「自分で動くなんて上出来だよ、潤」
 耳元で、声。それからちりとした痛み、甘噛みされた。
 洩れそうになった声を抑えて白くなるほど噛んだ唇。
「潤」
 名とともに奪われた。
 あわせてきた唇から舌が侵入しようとするのを潤は歯を食いしばっては嫌がる。
 その歯茎をそっと吉広は舌先で舐め。
「……んっ」
 思わず洩れた声は唇に飲み込まれ、それとともに舌が絡んで。
 ねっとりと吸われ、弄られ絡み合う深いくちづけ。
 体の上と下と両方に、男の一部を受け入れている。
 それを快楽だと認識したとたん、潤は吉広の唇から逃れ、顔をそむけた。
「やだって……言ってんだろっ」
「こっちは悦んでたみたいだけど?」
 そう言って吉広がまだソコに挿れたままの指を中で折り曲げる。
 ぴくんと。反応しそうな体を必死に耐えた。
「気持ちいいんだろう?」
 唇を噛み首を振る。無論、横に。
「嘘をついた潤にはじゃあ……いいものを見せてあげようね」
 ずるり。中から指が抜かれた安堵。
 その安堵もつかの間に彼は部屋の隅から大きな鏡を引いて戻ってくる。
 横幅も十分すぎるほどにある、姿見。
 それが潤の押し広げ拘束された足の間に据えつけられた。
「な……にっ」
「潤は嘘ばかり言っているからね。ココがどんな風になってるのかよく見たらいい」
 愕然として目をそらすことも忘れた潤の目にあられもない自分の姿が映った。
 大きく足を広げられ真紅の布で拘束された、体。
 自分の目で見たこともないその場所は薬と塗られた体液に濡れそぼっている。
「あ……」
 視線がソコを見たとたん。ソコがひくつく。
 あまりの羞恥に目を伏せた。
「見るんだよ、せっかく持ってきたんだから」
 ぐい、と首を捻じ曲げ固定される。まっすぐに前を向かされれば言われなくとも視線は自分の体に吸い寄せられた。
 見たくないのに、見てしまう。いや、見たいのに羞恥心がそれをさせない。
 鏡に映った中心はほんの少し手を触れられただけで達してしまいそうなほどの熱さを覚えていた。
「恥ずかしいね。こんなものを見せられてるのにまだここを熱くしてる」
 耳元でささやき声。中心に触れるような指先がそっとそこをたどっては触れずに去った。
「か……鏡、どけてッ」
「ダメだ」
 そう言って吉広は自身が鏡に写りこまない位置に腰を降ろし指先をソコにあてがう。
「ひっ」
 触れられた瞬間ざわりと肌が粟だったのに目をそらしかければ
「見るんだ」
 きつい声が飛んできた。
 その声の所為だ。
 潤は思い込もうとする。
 声が持ってきた恐怖に負けて見たと思うほうが、自分の欲望で見たと思うよりずっと楽だ、と。
 潤の視線がソコに吸い寄せられた。
「ほら……」
 吉広の指がじわり、体内に食い込んでくる。
 もどかしいような甘ったるい、快楽。
 その自覚に首を振った。弱々しく。そして声が命じるより前に指を飲み込んだそこをじっと見ていた。
「潤」
 名を呼ばれ。くちゅり。ソコが音を立てる。
「あ……っ」
「いやらしい潤のココがもっと欲しいって……言ってるね」
「ちが……う」
「どこが? よく見てごらん」
 言いつつ吉広が指をじわじわと抜いていく。ワセリンの残滓にぬめった指が鈍く、光る。
「……っ」
「ほら、下のオクチは抜いちゃいやだって、私の指を締め付けてる……」
「そんな……っ!」
 言葉で抵抗してはみたものの、確かに自分のソコが指をきつく、くわえ込んでいる。
 鏡に、なにも遮られることなく写っている、ソコ。
 吉広が動かすたびにひくひくと締め付けている。
 そしてそのたびごとに自分の中に彼の指を感じる。指がもたらす感覚とともに。
 つぷり。
 指が、抜けた。
「いやっ」
 瞬間、笑った吉広の顔。
「いやって言ったね……」
「あ……」
「欲しいんだろう?」
 潤のソコを指が円を描くように撫でている。鏡を見るまでもない、ソコは指を欲しがってあえいでいる。
「こんなにしてる自分のココ、見えてるんだろう?」
「みて、る」
「言ってご覧。『挿れて』って」
「や……だぁっ」
「恥ずかしい? こんな格好させられて、ココをいじっていい気持ちにさせられて。それでもまだ恥ずかしい?」
 嘲笑。それに体中が熱くなる。
「言ってごらん……潤」
 大きく開かされた足、縛り付けられた腿を吉広が、噛んだ。
「……て」
「聞こえない」
「挿れてっ」

 鏡に写った足の間にくわえ込んだ指が数を増している。
 ぴちゃり。
 潤が唇を舐め上げ。
 自身のソコを食い入るように見ていた。



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