「う……あぁ……」 小さな部屋の中、喘ぎ声と淫靡な匂いだけが満ちている。 地下室、だろうか。 部屋に光は射さない。 そこに。 一人の男が縛り付けられていた。 身にまとう物もなく。 他には誰もいない。 コンクリートを打ち放しにした壁に、見れば金具が打ち付けてある。 「はぁ……っ」 途切れ途切れの声はその男の立てるものだった。 頭の上でひとつに纏め上げられた手首に、紅いフェイクファー。 真紅の、冗談のような手錠で彼は縛められている。 柔らかい手錠は彼の滑らかな肌に傷をつけるのを恐れているかのようだった。 それだけが場違いに豪華なシャンデリアまがいの照明に照らされた体に一切の無駄はなく、引き締まった腹に欲情の汗が流れる。 腰から足へのラインは紛れもない男のものでありながらなんとも人をそそって離さない。 生まれながらのカラダ、と言うべきか。 色素の薄い髪が苦しげにゆがめられた額に張り付いている。 その顔が。 はっと目を見張るまでに美しい。 かしゃん。 ドアが鳴って人影が現れた。 縛めの彼をもしも光、と例えるならば新たな男は闇、と例えるべきだろうか。 相反した色を持ちながらなぜかよく似た雰囲気を持つ二人だった。 「辛い? 操(みさお)」 口元に嘲笑を浮かべて彼……和響(かずとよ)はそう問うた。 「も……やだ」 かしゃりとつながれた手首をゆすって操は哀願の口調になる。 「うそつきだね」 和響が嗤う。 嗤って彼の髪を嬲った。 「だってこんなにしてるじゃないか」 「ひ……っ」 彼の指先がわずか操の先端に触れた。それだけで操は悲鳴めいた嬌声をあげ。 それだけそこは高ぶっていた。 手首を縛められ隠すものとてない体のその中心だけが、なにをされているわけでもなく放置された、ただそれだけで言いようもなく高ぶっている。 「恥ずかしいね」 そのことを和響に嗤われ、操の体は上気する。 陽の光とは縁のなさそうな白い体が見る見るうちに朱に染まっていく。 まるで言葉に悦んでいる様に。 「こんなにしてる」 とろり、中心から滴り落ちる雫を彼の指が掬い取り、その刺激さえに耐えがたげに身を震わせた。 「はぁ……っ」 刺激をもっと欲しがって揺れる、腰。 その恥ずかしさに操は自分の腕に顔を埋めた。 「こっち向けよ」 顎先を指で捉え、抗う顔をこちらに向かせくちづけた。 ぴちゃり。 操に聞かせるためにわざと立てた、水音。 その音にやはり操は身を捩った。 「見ろよ、自分の」 「や……やだっ」 「見ろ」 きつい言葉に操はおずおずと下を向く。 羞恥と……期待、だろうか……に目を潤ませ己の中心を、見る。 「あぁ……っ」 その行為に。 耐え切れなげな声が、漏れる。 「縛られて放っとかれただけで、こんなにしてる」 言った和響から失笑が漏れ。 「これなぁんだ」 楽しげな言葉と共に彼が取り出したのは、ほっそりとした銀の、眼鏡。 「や……和響っ……それは、やだっ」 乱れた髪をかきあげてそんな声など知らぬげに彼は、その銀の眼鏡を操にかけさせた。 「やだぁっ……はずして、はず……」 抵抗はくちづけにふさがれて。 「ほらいつもの顔に、なった」 そう和響は破顔した。 「ね? 教授」 教授。 その言葉を聞いた瞬間、操は大きく体をそらしていく。 最後の瞬間へと。 「まだ、だめだ」 ひくり、震えるその中心を彼は指で押さえ。 根元を押さえられた中心は熱情の吐け口を失っては切なげに脈打った。 「いい眺めだね。大学が誇る天才が、ねぇ……?」 くちゅり。 視線に嬲られ、言葉にさらされ追い詰められたソコは彼の手が包み込むといやらしい水音を立てる。 「ひっ……だめ、だめだっ」 「最年少で教授んなったんだっけ?」 言いながらも手は器用に根元を押さえつつ、中心を嬲っている。 指の腹で先端をくるり、なぞれば声もなくのけぞった。 「訊いてるんだよ」 爪で先端のくぼみをわずかに引っかく。 操の体に走ったのは痛みよりも快楽だった。 「そ、そう……っ」 がくがくと首を振れば動きにつれて眼鏡が揺れる。 それが一層の羞恥とそこから引き出される快楽を煽った。 眼鏡。 それは研究室でだけかけている、いわば学究の徒としての操の象徴だった。 「白衣も持ってくればよかったな」 裸に白衣を着せて眼鏡をかけさせて嬲った方が、良かった。 そう和響が嗤う。 嗤われ想像し、操の熱が高まっていく。 「それだけは……っ」 口から出たのは違う言葉だった。 本当は。 そうやって辱められたいと、期待している。 その自覚に。恥ずかしさに、きりり。かかげられたままの腕を、噛んだ。 「恥ずかしい?」 笑いを含んだ声に涙ぐみさえして操は肯く。 「教え子にこんなことされて……」 言いつつ和響があいている片手で胸の辺りを摘んだ。 「悦んでるくせに。まだ恥ずかしいんだ」 きつく指先で胸の先端を押し込め、彼は嗤う。 唇を噛み、首を振り。悦楽に操は声もない。 「操、だなんて皮肉な名前だな」 ほら、そう言って和響は指先に引っ掛けたリングを見せる。 「なんだか、わかる?」 言葉に笑いを含ませて。 欲情にかすんだ頭がとろとろと動いてそれを見る。見た、その時にすっ……操の顔から色が失せていく。 「わかったんだ」 喉の奥で和響が嗤った。 半透明のリングはなぜか妙に愛らしいピンクに染められていて用途を知れば一層いやらしさが、増す。 「や……やめ……っ」 ひくひくと喉を震わせて哀願する口調など聞かぬげに彼はそっと、操の中心へとそれを、はめた。 「あっあっ」 つるりとしたシリコンの感触が先端をこする。 もっと! なのに一瞬でそれは通り過ぎ、根元にきっちりとリングははまった。 緩すぎずきつすぎず。 なのにこの可愛らしい色をしたものがある、それだけで最後にイけない。 「はぁ……っ!」 ぐるぐると一点に熱が集まっている。 痛みさえ覚えるほどに。 「こんなのも持ってきたよ」 取り出したのは淫靡な玩具。 精巧に作りこまれていっそグロテスクでさえある。 「足、広げろよ」 操は逆らわない。 どころか、欲情にかすんだ目はそれをとろり、見つめていた。 操の喉が動く。 ごくり、期待に生唾を飲んで。 「ほら」 言いつつ和響が操の形のいい唇にそれを押し当てる。 「ん……っ」 拒むことなくオモチャを唇に含み、舐めあげた。 ちゅぷ。 わざと立てたいやらしい音は自分に聞かせるためだったのかもしれない。 「もういい」 投げやりに彼は言い、名残惜しげに絡み付く唇から玩具を引き抜く。 そして。 息をつく間もなく。 「あぁ……っ」 慣らしもしていない後ろに一気にそれは埋め込まれていた。 「ひ……ィっ」 あげた悲鳴は痛みではなく。 中心が耐え切れなげに震え透明な液を吐いている。 のけぞる、首。 「そんなにイイんだ?」 嘲笑めいた口調で和響が問えば快楽を追い続ける操がただがくがくと首を振って答えにかえる。 「上の口で答えろよ」 「……イイっ」 「こんなことされて?」 悦楽に蕩けた目と冷たい目が視線を交える。 ぺろり。操が唇を舐めた。 「やらしい事されて……きもちぃ……」 はぁ。熱いため息。 「教え子にこんなことされてるんだよ、わかってる? 教授?」 「あ……っあぁっ……」 「わかってるなら、もっとちゃんと見せてくれなきゃ」 変わった勉強だよ、和響の嘲笑。 それが絶え間なく操の快感を煽り追い詰めていく。 この自分がこんなガキにいやらしい事をされて言葉で屈辱を与えられている。 それがなんとも言いがたい屈折した悦楽だった。 「後ろ向けよ」 「手……ほどいて」 「だめ」 言葉は一蹴され。 おずおずと紅い手錠につながれたまま操はコンクリートの壁に体を向ける。 「ふ……」 腕を壁について頭をそっともたらせかける。 「ん……っ」 自然軽く腰を突き出す形になったソコは中の玩具をきつく締め付け。 締め付けた分、快楽が強まった。 「もっと足開けよ。見えない」 「え……」 「オモチャ咥え込んでる所が見たい」 「はず……かしいっ」 「いまさら!」 鼻で笑われ操は両足の間の距離をだんだんと広げていった。 手をかかげ足を開き、腰を突き出して。 「あ……うっ」 落としそうになった玩具につい力が入って体を追い詰めた。 「落とすなよ」 嗤い混じりの声がずり落ちそうなそれを手荒に中に突きこむ。 「んっ」 ひくひくとそこが震えているのがわかる。 恥ずかしい。こんな無機物で嬲られて、恥ずかしい。 だからいっそう頭は蕩けていく。 操からは見えない後ろで和響が微かに笑った、気がした。 かちり。 金属音? そう考える間もなく。 「あっあっあっ……あぁっ!」 中の玩具が動き出す。 人の動きではありえない、無機物らしい、律動。 「はぁ……っ」 中をこねくり回され、奥を突かれ操は知らず頭を振った。 「言わなかったっけ? リモコンで動くんだって」 小さなモーター音と操の喘ぎ。 それにソコが立てる、水音。 それに和響の嗤いが重なり、もう操はなにも考えられなかった。 中心が痛い。 良くて良くてこのまま熱を吐き出したくて。 なのにあのリングの所為でその熱が中心でとぐろを巻いている。 気が違いそうなほどイきたい。 「イかせて……っ」 「まだ」 「……っなんでもする、なんでもするから……ぁっ」 その言葉を待っていたように。 和響の目がすぅっと細められ口元に残忍な笑みが、浮かぶ。 「じゃあ、服着ろよ」 |