「そんな……っ!」
「なんでもするんだろ」
「だ……だめ」
 和響の注文に答えようと腰を突き出したまま切なげな目をして操は振り返る。
 その間にも中の無機物は律動を緩めはしない。
「あぁ……」
 こっち向け、言いかけ和響は手荒に彼の体を自分の方へと向けた。
「ん……っ」
 触れられただけで甘い声をあげる操をちらりと見上げ。
「あぁ……っ!」
 リングをはめたままの先端を唇に含んだ。
「ひ……んっ」
「あられもない声上げんなよ、教授」
 唇を先端に当てたまま、和響は言った。
 ふわふわと柔らかい唇が敏感な場所をそっと擦る感覚に操は声もない。
 びくびくと体中が痙攣する。
 ぴちゅ。
 わざと音を立てて先端のくぼみに舌を差し込む。
「ひっ」
「感じるんだ」
 ココが。言って再びそこを嬲った。
「ここは、もっとイイ?」
 和響が周りを舐める。丁寧に。段差のついた部分を舌で擦りあげるように、舐める。
「はぁ……っ」
 ふるふると快感に首を振れば眼鏡も、揺れる。
 恥ずかしさに体に力が入り、そこの玩具の勢力が増した。
「あ……っ」
 なにも考えられなげにただ快楽を追う操に和響は少し、笑う。
 添えた片手でそっと苦しげなリングをずらし、操の中心を奥まで咥えなおした。
「あっあっ……でるッ……でちゃう……ぅッ」
 びくん。
 操の体が反り返る。
 すっと顔を引いた和響の顔に白い体液が、かかった。
「あ……」
「酷いな」
 和響が嗤う。
 嗤いながら口元に流れた体液を指で掬い取っては舌先に乗せた。
「……苦い」
「ご、ごめん……」
 後ろに玩具を挿れたまま、操は周章狼狽し、顔から血の気が引いていく。
「せっかく気持ちよくしてあげたのに、酷いね」
「……っ」
 突然操が身をよじらせた。
「どうした?」
「……っうしろっ……と、止めてっ」
「だぁめ」
 にやり、笑うその笑みの。
 残忍さ、だろうか。それに操はまた血をたぎらせる。
 出したばかりの中心がまた、熱をもち始めていた。
「ヤラシイんだな、教授は」
「あ……ん」
「ヤラシイって言われて感じてる」
 嘲う和響の言葉に声もない。
「早く服着ろよ」
「え……これ……」
「教授サマが後ろにオモチャ咥えたまんまお外に遊びに行くなんて……」
 くちゅ。
 吐き出したものと和響の体液にまみれたままのモノを手の中に握り締める。
 もうそれは充分過ぎるほどの熱を持っていた。
「楽しいじゃないか?」
「やだ……ぁっ」
「いやならこのままほっとくよ、いいの?」
 さも楽しげに和響が笑い声をあげ。
 手の中のモノを、充分に知り尽くした手が弄う。
「ひっ……くぅ」
 喘ぎ声と共に操は知らず肯いていた。
「……いい子だ」

 夜になっても明かりの消える事のない町の中、和響が車を走らせる。
 隣には狂おしげに顔をゆがめた、操。
「……っ、ふ……ぅっ」
「そんなに声出してたら、変だぜ」
 誰かとすれ違ったらどうする? 言葉で嬲りながら和響は楽しげだ。
「だ、だってっ」
「下のオクチに咥えたオモチャがイイ?」
「……んっ」
「そんなにきもちい?」
「は……ぁっ」
「あーとか、んーとか言ってたってわかんねぇだろ」
 かちり、運転の合間に。
「ひっ、あっあっあっ」
 リモコンで玩具を弄った。
「イイんだろ」
「……っイイっ、気持ち……ィ」
 答えに満足したか和響は玩具の強弱を落とした。
 ほっとちいさく安堵のため息が漏れる。
 けれどしだいに。
「どうしたよ、教授」
 和響が嗤う。
 シートベルトで固定されている操の体がもぞもぞと蠢いている。
「物足りないらしい」
 言葉にだされて操は首筋を羞恥に染めた。
「く、車の……」
「振動が気持ちよくってもっとたくさんして欲しくなったわけだ」
 操の言葉にかぶせて和響は最後まで言わせない。
「は……ぁっ」
「して欲しいって言えよ」
「し……て」
 欲情に曇りきった頭はそんな言葉を抵抗もなく、言わせた。
 和響は笑い、なおも車を走らせる。
 そして深夜になっても明かりが煌々と輝くコンビニの前に車を、止めた。
「え……」
「喉渇いたな」
「……」
「買いに行こうか」
 言っている意味のまだ飲み込めない操の体をドアの外へと押し出そうとする。
「そんなっ」
「恥ずかしい? 教授」
 こくん。操が肯く。
「オモチャ咥えたまんま、誰かに会いたくない?」
「……って、歩け、ない」
「どうして」
「……感じ、ちゃうから」
「だから外行くんだろ、出ろよ」
 そう言って一人先に出たかと思えば外からドアを開けられた。
「出ろ」
 操は一瞬、唇を噛みそして言葉に、従った。
 ぱたん。
 ドアの閉まる音もろくに聞こえない。
 一歩歩くごとにいや、立っているだけでソコから強烈な快感が襲い掛かってくる。
「……っ」
「声だすなよ、変に思われる」
「……って!」
 抗議は聞き入れられず和響は店の扉を開けた。
 ひとりでは立っている事さえ出来ない操の足がふらふらと和響を追いかけていく。
「いらっしゃいませーっ」
 場違いに明るい声が操の耳に入ったか、どうか。
 足を出すたびに腰が玩具を締め付ける。
 下着に中心が擦れていっそどうなってもいいからここで出してしまいたい、そんな誘惑。
 あのリングでもはめられていればまだ楽だった。
 突然、中の玩具が暴れた。
「……っ!」
 必至で声を、こらえる。
 くらり、揺れた体を店員も何人かいる客も不審げに見ている気が、した。
 見られているっ。
「……ぅ」
 見られている、それが操の体に頭が白くなるほどの快楽をもたらした。
「どうしました、教授。顔、赤いですよ」
 研究室のいい子の顔で和響が言う。
 そっと気遣わしげに肩に手をかける。
 それがまた変に見られやしないか、そんな考えを誘って体を熱くさせた。
「よ、弱く……してっ」
 小声で言えば
「もっとしてって言ったの誰だよ」
 同じ小声で返された。
「教授、なに飲みますかぁ」
 わざとのほほんと言いつつ和響は操の手を乱暴に引いた。
 歩かされる。
 この追い詰められた体で歩かされる。
 一歩一歩が苦しいほど、イイ。
 中心が痛みを感じるほど、その事しか考えられない。
「これでいいっすか?」
 そう言った和響がショウケースから出したばかりのペットボトルを操の頬に、当てた。
「ひっ」
「やだなぁ、ぼうっとしてるから」
 苦笑して見せる、和響。
 店中の視線が操に、集まる。
 とくん。
 鼓動が速まって快感の果てが、近い。
「じゃあ、買ってきますから」
 声がどこかで聞こえている。
 ふらふらと操は車に戻っていった。

 車に戻ってから和響は黙ったまま走り出す。
「はぁ……はぁ……っ」
 操の喘ぎ声が小さな密室の中、高まっている。
「も……ぅっ」
 哀願の視線にも声にも彼は反応しない。
 ただ黙って走らせている。
 海岸線の明かりが綺麗だった。
「もう、もう……だめっ」
 その言葉に。
 和響がにやり、笑う。
「じゃあ外でしていいんだ」
「……っ」
「嫌なら家まで我慢しろよ」
 冷たく言い放ってはまた運転に集中し始めた。
「……いいっ、いいから……し、てっ」
 きくっ。
 ブレーキが、鳴る。
 なって車は止まり、止まった所に。
「あそこがいいな」
 廃船があった。
 車はいつのまにか海岸にまで入っていたらしい。
「出ろよ」
 今度は言われるまでもなく自分で這い出していた。
 柔らかい砂に足を取られて体に力が入る。
 ソコに、力が入る。
「ひっ」
 どくどくと中心が脈打っている。
「こい」
 和響はふらつく操の手を引いて廃船の船べりに手をかけさせた。
 後ろからファスナーを降ろし、中心を掴む。
 操は自分から片足のズボンを抜き取っていた。
 足元に淫靡な影がわだかまる。
「はぁ……んっ」
 透明のぬめりは下着をはるかに超えそのもの自身をも酷く、濡らしていた。
「足開けよ、いつも言わせんな」
 片手は中心を嬲り、空いた手がシャツをたくし上げて胸の先端を摘む。
 囁き声と共に和響の歯が操の耳を軽く、噛んだ。
「んっ……」
 諾々と操は足を開く。
 力の入らない足が砂に埋もれてずるり、滑った。
「ひ……ィっ」
 ぼとり。
 和響が乱暴に引き出した玩具を放った先で砂にまみれたそれが音をたて。
「抜かないで……抜かないでぇっ」
 突如、充実感を失った操のソコがひくつき、隠語が口をつく。
「欲しい?」
 ぴちゃり。
 和響が唇を舐める。
 熱いソコに這入りたいそんな獣欲に目をかすませながら。
「欲しいっ」
 欲しくて欲しくて悦楽に声が、掠れる。
「挿れて……っ和響っ」
 狂ったように首を振り、船べりを掴む指が、白い。
「和響のが、欲しいっ!」
 びくん。
 操の背が弓なりになる。
「熱い……熱いよ……ぅっ」
 玩具とは比べ物にならないそれが操の中で猛っている。
「ひ……っ」
 体の中がひっくり返ってしまう、そんな快楽。
 突き立てられるたびにきつく締め上げ、引き抜かれるごとに行かないでくれとひくついた。
「う……っ」
「和響?」
「……くっ。イきそ」
 操の耳元で掠れた声がそう言った。
 熱い息が、かかる。
「あ……っ」
 体中を快感が駆け回る。
 その時。
「あっあっあっ……イクッ、イク……ぅッ!」
 一瞬、和響のうめきを聞いた気がした。
 ひときわ中が熱くなっては、頭の中が真っ白になる。
 和響の手の中に放ったのも知らず操はそのまま気を失っていた。

 波が。
 寄せては返し、返しては寄せる、音。
 情欲の跡もそのままに倒れこんでいた和響の目が開き、かすんだ視界が戻ってくる。
 船べりに。
 操が腰かけていた。
 シャツだけを引っ掛けたまま、素足をさらして。
 さっきは気づかなかった月光が操の色素の薄い髪に光っている。
 ふいに、視線が絡んだ。
「……もっといじめてよ」
 操が笑う。
 その足に。
 白い体液が、伝っていた。




モドル