「はっ、堕ちたものだ」
 大きく広げた足の間を晒し、ものほしげな言葉を発した潤を吉広は人もなげに嘲笑する。
「くっ……」
 羞恥に頬を、いや全身を染め抜いた、潤。
 一層赤く色づいたソコが、ひくひくと脈動していた。
 吉広は嗤い、そして立ち上がりどこからかちいさな小壜を手に戻ってきた。
 初めて使われたあの小壜とは違う、透明な壜。とろりとした金色の液体。
「ほら」
 反論を許す隙さえ与えずに、吉広は壜の中身を潤の体の上にぶちまけ。
「なっ」
 と、ふわり立ち上る甘い匂い。
「は……蜂蜜?」
「ご名答」
 吉広が、笑う。
 笑ってそのまま隣に体を横たえ、ちろり、肌を舐めた。
「……んっ」
 たったそれだけの刺激で声をあげた潤をさも可笑しげに、笑う。
「わら、うなっ……アンタが……ッ」
「だったら黙ってるんだな」
 言ってまた温かい舌が肌の上をすべり。
 全身に散らされた蜂蜜をまるですべて舐めとろう、とでも言うように、丹念に舌を這わせられる。
「……はぁっ」
 甘いような、もどかしい快感にたまらなくうっとりと声をあげ。
「こんなもんじゃ足らないねぇ、潤」
 耳元でささやかれた言葉はまるで蜂蜜のよう。
 甘く、そして甘すぎる刺激のせいで舌がしびれる。
「お前の番だ」
 言って吉広は潤の体に残った蜂蜜を指先ですくい取り、自分の肌に落としていった。
「……ん」
 甘やかな刺激に倦んだ体が、頭が、抵抗する事さえ忘れさせ。
 ぴちゃり。
 潤は吉広の肌を舐め上げた。
 蜂蜜の匂いの奥からわずかに漂う吉広のコロン。
 慣れた匂いに顔を埋めた。
 ソコが痛い。
 足りない快楽にずきずきとソコが痛い。
「……はぁッ」
 知らず屈めた体の足の間を通して自分の指がソコに伸び。
 わずかに触れただけで声があがった。
「我慢のきかないこだねぇ」
 嗤い声があっと言う間に潤の体を押し倒す。
「なっ」
 仰向けに倒れた潤を膝立ちになった吉広は上から嘲笑し、片手をつかんでは潤の体を引き倒す。
「腰をあげるんだな」
 獣の、格好だった。
「欲しいんだろう? 潤」
 嘲るような声。その中に確実な悦楽への期待が滲んでいるのを潤は感じ取り。
「や……はず、かしいッ」
 わざと逆らう。
「なにをいまさら」
 声は言い、乱暴とも言える調子で潤の腰を高々と差し上げさせた。
「……やぁっ」
 膝をつき、肩をシーツにのめりこませ。
 軽く開いた足の間、ソコはこれからへの欲望で熱が。
「なにが嫌なんだかねぇ。こんなに……欲しがってるくせに」
 そっと爪がソコをたどる。
 びくり、体が跳ね上がった。
「自分で広げてごらん、潤」
「……ど、どうやって」
「それくらい考えるんだねぇ」
 どくどくと、全身が心臓にでもなったように拍動している。
 ソコに熱い刺激が欲しい、ただそのことだけを考えていた。
 ゆっくりと潤は体の下に腕を通し、不自由な姿勢で足の間から両腕を伸ばした。
 指先が震えている。
 体重に押しつぶされた腕の痛みを減らそうと肩で支えればより高く腰をあげることになる。
「……くっ」
 そっと手をあてがい、そして動けない。
「いつまでそうしている?」
 とたんに飛んできた声に、体を震わせ掌に力をこめた。
 ぐい、と自らの手でソコを広げて見せ。
「あぁ……ッ」
 その行為に、欲情した。
「……も……早く、ここ……欲しいッ」
 このまま放っておかれたら、そのままの姿勢で慰めてしまいそうだった。
 指をソコに埋め、それから。
「あぁ……」
 ため息とともに指がうごめいてしまう。
 自分の手でソコに触れ、撫ぜる。
「我慢できない? 潤」
 楽しくて仕方ない声が言う。
 だめだねぇ、笑って指を引きはがす。
「や……っ」
 たまらなかった。
「あ……ん」
 吉広の温かい掌が腰を包み込む。
「んッ」
 そこに軽く、歯を立てられた。
 それにさえ甘ったるい快感が走り。
「潤」
 呼ばれた気がした。
 気のせいだったかもしれない。
「ひ……ぃっ、あっあっあ……ッ」
「……ちから、抜け」
 玩具とは比べ物にならない量感と、熱。
 侵入する。
 後から、獣の姿勢のまま征服される。
「あ……んぁ、だめ、だめ……あ」
 逃れようとするのを吉広の大きな手で腰をつかまれ阻まれた。
「ほら……」
 ぐい、押し付けられる吉広の、腰。
 自分の中で脈打っている。
 つ、と潤の中心から滴が垂れてシーツに染みを作った。
「欲しかったんだろう?」
 ちからいっぱい突きこまれた、腰。
「ひ……っぁ」
「全部……潤の中だねぇ」
「やめ……言うな……っ」
「なにを言うなって?」
 言いつつ吉広が身をかがめ背中に肌を合わせる。
 汗に湿った肌のぬくもり。
 わずかに引かれた腰がまたももどかしい。
「はずか……しい」
「こんなことされるのが?」
 笑いとともに体を起こした吉広。
 引いていた腰を深くつき立てた。
「う……っあぁ、あ、あ」
 きつくシーツを握る潤の指。
 いやいやをする髪がさらさらと音を立て。
「……ふ」
 ゆっくりと引き抜かれていく、安堵にも似たものはあっさりと崩される。
 内臓が引っ張られるような、そんな感覚。
「そんなに締めて、喰いちぎる気か?」
 言われて知った。
 自分のソコが吉広を締め付けている。
 出て行って欲しくない。この熱いモノに蹂躙されていたい。
「や……もっと……」
 言葉に合わせるように深く沈められた腰にソコがひくつく。
 引き抜かれては悶え、突き立てられては喘いだ。
 内壁が熱にとろけそうだった。
「も……だめ」
 喘ぎ声さえたどたどしい。
「まだだ」
「あっやだっ」
 体勢を変えようと吉広が引き抜いたのに思わず声が。
 にやり、笑う吉広。
「今度はお前が動くんだな」
 ゆったりと横になり、その上に潤をまたがらせる。
 はじめは羞恥にか抵抗したものの、結局はそこにまたがり
「……自分で?」
 問いに
「そうだねぇ、潤。自分の手で挿れるんだよ」
 目を細めて笑われた。
「くっ」
 ためらいはしたけれど、ソコも中心も欲求が耐えがたい。
 熱い吉広の中心に手を添える。
 先ほどまで自分の口の中にあった、それ。
 ゆっくりと再びソコに導く。
 入り口に先端をあてがえば、薬にかぬめりにかつるり、すべる。
 力を抜いて咥えこむ。
 しゃがむ姿勢で腰を落としていくごとに吉広のモノが這入ってくる。
「はぁ……っ」
 すべて埋めきった時にはあまりにゆっくりとした悦楽のせいか、汗みどろだった。
「動くんだよ、潤、自分で」
 とろけ切った頭に、体が自動人形のように反応する。
 自分の内壁のイイところを探し当て、こすりつけ。
「あ……ん、あ……ぅっ」
 吉広の腹に手をついて腰を振る。
 その潤の中心からは透明な液体がしたたっている。
「こっちには触ってないのに、イヤラシイ子だよ、潤」
 言って指先が中心をつついた。
「ひぃあっ」
「イイ? 潤」
 触られた拍子に締め付けたソコからあふれ出す快感。
 がくがくと首をふり、今度こそは本当に
「もう……だめ……イッちゃう……」
 うごめく腰が物足りなげにゆれ。
「潤」
 呼ばれて薄目を開ければ吉広が体を起こしていた。
「ふぁっ」
 挿れたまま胡座の中に抱えこまれ、中心が吉広の腹にすれる。
「ん……ぁっ」
 快感におかしくなりそうだった。
「じっとしてろ」
 落ち着かなく動く腰を抱えられそのまま、倒れこみ。
「ん……」
 くちづけられた。
 甘い舌が口の中を這い回る。
「……も、だめ。イかせて……イか、せ……」
 うわ言めいた、喘ぎ。
 それに吉広の腰が速まる。
 叩きつけるようなその動きに潤は悲鳴とも嬌声とも取れる声をあげ。
「イク……っイク……、あ、あ、あ、イくぅッ!」
 吉広のモノが中で膨れ上がり、そして熱いもののあふれ出す、感覚。
 それを感じたとき潤は吉広の腹に白い粘液を放っていた。



 目が覚めたそこはいつかのあの部屋。
 さらりとした肌に清潔なシーツがかかっている。
 体は丁寧に清められているようだった。
「あ……」
 目を移せばそこに。
「起きたか」
 吉広がいた。いた、というよりもすっぽりと包まれていた。
 温もりが心地よい。
 肌に頬を擦り付ければいつもの慣れた匂い。吉広の匂い。
 髪を指で弄ばれている感触さえ、いまは快い。
 外に逃れることも自由を手に取り戻すことも、疾うに潤は忘れていた。
 このまま、ここで。

 いつのまにかまた潤は眠りに落ち。
 その安堵しきった姿に吉広が、嗤う。
「堕ちたねぇ」
 ゆっくりと眠った体、抱き寄せては首筋に唇を。
 離したとき、そこにはくっきりと所有の証しが刻まれて、いた。




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