冷たい水だった。
 数歩、足を進めるうちにずぶりずぶりと沈み始め。
 はっと気づいた時にはすでに身動きがかなわなくなっていた。
 辺りを見回し、戸惑えば泉の中央が盛り上がりざわざわと水が騒いでいる。
 思わず息を飲み逃げ出そうとするのも体が動かなくてはどうしようもない。
 盛り上がった水から巨大な水蛇が姿を現した。
「これは珍しい……」
 響いてきた声は現実の声ではなく自分の頭に響いたのだと知り、恐怖が動かない体をさらに縛る。
「せっかくきたのだから」
 水蛇はさらに言い。
 その言葉を待っていたかのように小さな蛇が体中にまとわり這い上がって。
 悲鳴をあげるはずの喉は乾いたようなかすかな音を発しただけだった。
「遊んでいくがいいさ」
 笑い、だったのか。
 水蛇の声とともに小蛇が服の中に入り込み、泉の水までもが意識あるもののように肌を嬲った。
「帰れないよ、もう」
 水蛇の声がどこか遠くで響いているような気がしたけれど、すでにまとまりのあることは考えられなくなっていた。


水蛇bad



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