もっとよく見える位置に体を動かそうとした時、がさり、潅木に袖があたって大きな音をたて。
 まずい、そう思った時には茂みの向こうの人影がこちらを見つけていた。
「こんな所までねぇ」
 笑ったのは。
 妖狐だった。
 銀の尻尾が楽しげにゆれている。
 新しく見つけた玩具をどうやって壊そうか、そう思案するように。
「さぁ」
 おいで。
 体が自分の意思に反して茂みの向こうに進んでいく。
 逃げだしたくてたまらないというのに。
 恐怖に引きつった顔を妖狐はさも面白げに見ていたがふと別の誰かの気配を感じると
「ここに来たからにはそのままじゃあ帰せないねぇ」
 そう、酷薄に嗤い、手をひらめかしては指の間になにかの木の実を生じさせ。
 それを唇の間に押し込んでくる。
 青い、この世のものではありえない色をした木の実だった。
「噛め」
 またもや意思に反して自分の歯がそれを噛む。
 どろりとした果汁が流れ出し、体に強烈な酔いのようなものがまわり。
 意識を失う直前に茂みの反対側から美しい虎の尾が覗いたのを見た気が、した。



妖狐bad

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