どうしてこんなことになってしまったのだろう。 どうしてこの人を好きになってしまったのだろう。 どうして……。 「おいで、旭(あさひ)」 ベットに腰かけた男が旭を呼ぶ。 「英ちゃん」 旭が応える。 うれしそうに。 ぱふんと音がして旭は彼の腕の中。 「二十五歳も年上なのに……」 英ちゃんはないよな、旭は胸のうちで苦笑するのだけれど自分はそう呼びたかったし、彼もまたそう呼ばれるのを好んだ。 「ん……」 彼に、氷室英司にきつく抱きしめられては思わず声がもれる。 こうやって抱きしめられるのが好きだった。 英司は遥かに年上、というだけではない。 彼にはちゃんと妻子がいた。 それなのにこうして自分と抱き合っている。 その事に罪悪感がないわけではなかったけれど 「好きだからしょうがない」 とも旭は思う。 彼の妻は美咲、といった。 「フィンランド語と日本語の相違を確かめに行く」 そう言ってフィールドワークに出ているとおり彼女は言語学者だった。 はきはききびきびしていておっとりと気の弱い英司には似合いの夫婦、旭にはそう見えている。 けれど英司は 「旭がいなきゃダメだ」 そんなことを言った。 うれしくもあり少し複雑でもある。 留守がちな彼女の身代わり。 一瞬そんな事が頭をよぎる事もあったけれどできるだけ考えないようにしている。 ベタ惚れなのは自分の方。 そんな被害妄想じみた考えは卑屈で嫌だったから。 「旭……?」 英司が訝しげに名を呼んだ。 「うんん、ごめん」 二人きりでいられる貴重な時間に少しでも自分の中に入り込んでしまったのが惜しくてたまらない、そんな風に旭は笑って見せる。 英司はそれに応えて自分も笑みを見せ、唇を重ねた。 柔らかい唇が自分の唇に触れている。 それを思うだけで旭の鼓動は高まって止まらない。 悪戯するように重ねただけで動く唇に体の底が熱くなる。 「ふ……っ」 最初に声がもれたのは旭の方だった。 耐えられなくなって自分から舌を差し入れる。 彼の髪に指を絡ませ逃さないよう抱きしめて。 「あ」 押し倒されたそこは。 氷室夫妻のベットだった。 梅雨も明けていないのにやたらと蒸し暑い晩だった。 部屋の中はクーラーが冷えすぎなほどに効いている。 「あっ」 すでにすべてを剥ぎ取られた肌に鳥肌が立つ。 そこをちろり、舐め上げられた。 舌が熱い。 「ん……そこじゃなくって……」 わざとじらすようにちろちろと違う所ばかりを舌で嬲る英司にじれて、旭は体を捩じらせた。 捩らせ、そして英司の舌を誘導しようと試みる。 「ここじゃなくって?」 そんな目論みもあっさり崩し彼は楽しげに笑う。 ほっそりとした労働に向かない英司の指が旭の喉から鎖骨をたどり胸の手前まで来て引き返す。 何度も。 「言ってごらん、旭」 「や……」 ごくり、喉がなる。 倒錯的な快楽の期待に。 そして旭は彼の望むようにと。 「ここ……して」 彼の指を自分の胸の辺りに導いて触れさせる。 それだけでぞくぞくするほどイイ。 「あ……」 にやり、笑う彼の目に身を震わせては導いた指に自分の手を添え。 力を入れる。 「んんっ」 彼の指を自分の指で押さえつけている。 「はぁっ」 まるで自慰みたいだ、そう思った旭の中心が熱さを増す。 押しつぶされた突起からじれったい快感が押し寄せ。 また彼の指を操って硬くなった突起を軽く摘んだ。 びくん。想像していたよりずっと強い快楽に襲われて知らず背中が弓なりになり、指先は痛みを感じるほど強く突起を嬲っていた。 「こんなので満足なのか?」 英司が嗤う。 「や……こっちもっ」 弾みあがった息遣い。 中心からとろり、滴が落ちる。 「ここ?」 旭が導いた先。中心。 そこをいきなりつかまれ、声も出ない。 ただびくびくと体だけが震える。 「こんなにして……」 英司が耳元でささやいた。 くちゅり、下のほうで水音がする。 中心を英司が嬲るたびに起こる、音。 「あ……や」 あまりの悦楽の強さに思わず旭は身をひねって逃れようとするけれどかなわない。 「もっと……して欲しいんだろ」 英司の声が掠れている。 欲情に掠れた彼の声に旭は一層追い詰められて。 がくがくとただ首だけを振って肯いた。 「どうして欲しい?」 彼は許さない。 「く……口で、して」 羞恥に体中を緋に染めて言うのに彼は舌なめずりをして、応えた。 「……っ」 予告もなく予備動作もなく、一気に飲み込まれた中心から終りに近い快感がくる。 と。 それは吐き出されてしまった。 「あ、やだっ」 思わず抗議の声を上げた旭に彼は優越感の笑みをもらし、見せつけるかの様に舌で中心を舐め上げた。 「ひっ」 それを目にした旭の体に寒さではない鳥肌が立つ。 じゅぷ。 いやらしい音を立てて英司が中心を飲み込む。吐き出す。 旭のイイ所を舌先でたどって周りにも舌を這わせ。 「そこっ……ダメ……ぇ」 「やめちゃあダメなんだろう?」 意地悪く言いながらも彼の愛撫は止まらない。 周りを舐めつつ指先で先端のくぼみに触れた。 「……んっ」 びくんと跳ね上がる旭の体に彼は嗤い先端を弄う指に熱をいれ。 そっとそこに爪を立てた。 「は……ぁっ」 よすぎてもうなにがなんだか旭にはよくわからなくなっている。 朦朧とかすんだ頭はもうその事しか考えられない。 指先が英司の髪を掴んで中心に彼を押し付けようと努力しているのさえ気づかなかった。 |