「ただいま」 長身の青年が話し掛けた相手は猫だった。 うなぅん。 猫が彼の足に擦り寄る。 ほっそりとした三毛猫だった。 「お前の兄弟はいい子にしていたかい?」 くく。のどの奥でなされた笑いは決して健全なものではなかった。 なぁん。 知らないよ、とでも言ったのだろうか。 三毛猫は長い尻尾を彼の足に絡ませるようにして歩き去った。 ひとつだけ重厚に作られたドアの前、彼・皓(こう)は立つ。 かちり。 誰もいなかったはずの家なのにそのドアには鍵がかけられていた。 ドアの向こうは、暗い。 「聖(せい)」 彼は暗がりの中ペットを呼んだ。 綺麗な指が薄明かりを点じる。ぼぅっとした明かりに照らされた部屋は閑散としていた。 そこここに散らばる小さな、黒いファー。 長い、異常に長い……そう黒猫の、尻尾に模したファーが床に転がる。 他にあるものといえば時代がかった長いすに巨大な姿見。 それだけ。 「聖」 彼は再び呼ぶ。 と。 姿見の陰から 「お帰りなさい」 声がかかった。 怯えたように、少し震えて。 それに皓が笑う。楽しくてたまらない、そんな笑いをもらした。 「また言いつけを破ったね」 「あ……」 「あ、じゃないだろう?」 くく。またのどの奥で笑う。 「せっかくの装いなのになぁ?」 言われた聖は。 なにもまとってはいなかった。 薄明かりにも白い、男になりかかった少年の、体。 癖のない素直な髪もおどおどとした瞳も漆黒だった。 ただ。 その髪に。 冗談のようなアクセサリー。猫の耳。 パーティーショップで見かけるそれよりすっと精巧に作られた猫耳は、場所と聖の姿さえ改めればそれはそれで愛らしい装いだったろう。 けれど聖はそれのほか、なにも身につけていなかった。 「さぁ、つけ直してあげようね」 優しげな声がなんて怖くて甘いんだろう、聖は思う。 皓は聖の飼い主だった。 床に散らばった小さなファーを皓は拾い集め嬉々として聖に体にまとわせていく。 両の手首と足首とに。まるでカラーのように。 そして。 ちりん。 澄んだ音を立てる金の鈴。 「白い肌によく映える」 そんな事を言いつつ彼は真紅のベルベットに通された鈴を聖の首に結んだ。 首輪、だった。 「あ……」 ちりりん。 身じろぎに鈴が鳴る。 なにをされたわけでもないのにぞくり、背中を快楽の芽が走る。 「さぁ鏡の前に立ってごらん」 淫靡な明かりの中で聖は逆らうことなく鏡の前に立った。 言われるまでもなくくるり、まわって見せ。 「なにが足りない?」 鏡の前の長いすに、ゆったり腰を下ろした皓が問う。 からかうように。 「あの……」 初めて聖は自分の体を覆い隠すもののないことに気づいたように少し、身を屈めた。 じっと見つめる皓の視線に血の気の薄かった肌がぽうっと上気し始めた。 その皓の目が嗤う。 聖の立ち上がりかけた中心に目をやって。 「あ……」 慌てて隠そうとしたその手をどこから取り出したものか柔らかい革の鞭が打った。 柔らかい革の鞭は聖の肌を傷つける事はない。 ただ熱くしびれるだけ。 「誰が隠していいって言った?」 「ごめんなさい」 「それで」 冷たい声。 まだ問いの答えが返ってきていないと聖の飼い主は促したのだった。 「しっぽ……おしっぽが、ない」 飼い主に媚びる猫の仕種で聖は身を捩じらせて自分の背後を見る。 無駄のない腰のラインの向こう、聖の飼い主の望むアクセサリーがなかった。 「そう。おしっぽがないねェ」 長い指が口元を覆う。 まるでそれは残忍な笑いを隠すようだった。 「そこに落ちてるのはなにかな? 聖」 びくり。聖が震える。 それを指摘されるのを恐れていた聖だった。 「私が出かける時にはちゃんと聖にはおしっぽがあったはずだよ」 「……はい」 「じゃあどうして今、聖におしっぽがないのかな」 柔らかい声の後ろで毒を含んだ嗤いが起こる。 「落ちちゃったの」 「……お仕置きが必要だね?」 言葉とは裏腹に皓は満面の笑みを浮かべていた。 「さぁ拾っておいで」 はい、聖は小さく肯くと恐ろしいものでも手に取るように長いしっぽを拾う。 くたり、生命の宿らないそれはそれでも極上の手触り。 それの付け根がなぜか異常に肥大しているのを除けばごく普通の作られた仮装用のしっぽだ。 けれどそれは「聖のしっぽ」だった。 「いい子に待っていなかった罰だね」 しっぽを手にしたまま立ちすくむ聖に姿に彼は嗤う。 優しい飼い主の声で、嗤う。 「自分の手でしっぽをつけるんだな」 「あ、や……。はずか、しい」 「飼い主様に逆らうのかい?」 嘲笑。 ひゅん、耳元で鞭が鳴る。 「鏡の前で……そうそのまま。座るんだ」 鞭の音にすくんだわけでもなく、なのに聖は言われたとおりに腰をおろす。 敷き詰められたじゅうたんが素肌をちくちくと刺した。 「んっ」 「待ちくたびれてたんだね、聖は」 声に嗤われても隠しようのない証しがそこにあった。 じゅうたんに、鏡に皓の視線に。 なんの刺激も受けていないはずの中心は熱を持っている。 「足を開いて」 びくん。また中心が跳ね上がった。 聖は言われたままに鏡の前で膝を割る。 すんなりとした足が羞恥に染まって。 「自分の手で……挿れなさい」 「……っダメ……」 しっぽの先に。 玩具がついていた。 恥ずかしさに身を震わせ必死になって首を振る。 ちりりん。 抵抗に鈴が鳴った。 「あぁ……」 ひそやかな明かりに見て取れるほど中心は高ぶっている。 滴が落ちる。 「あぁなにもないと、辛いね」 楽しげに笑いつつ皓は立ち上がる。 一瞬ドアの向こうの明かりがひとすじ部屋に差し込んでまたなくなる。 再び差し込みなくなった時皓はあの綺麗な三毛猫を抱えていた。 なぁう。 三毛猫が皓の手の皿を欲しがる。 「これはダメ」 彼女をたしなめておいてその皿を聖にと床を滑らせた。 厚いじゅうたんに引っかかりながら小皿が聖の手元に届く。 「あ……」 「それを使ってしなさい」 小皿の中には 「……バター?」 「すべりが良くなっていいだろう?」 高らかな嗤い、哄笑。 腕の中の三毛猫が迷惑そうに皓を見上げる。 「こ、これ……」 「聖が自分の指でそれをつけて、慣らして、しっぽを挿れる。わかるね?」 「そんな……っ」 「そんな、なんだって言うんだい?」 やるのかやらないのか、笑いとともに問われて聖は肯く。 そろりバターの塊に指を伸ばした。 中指でこじるように少し取る。 冷たい。 「は……ぁ」 片手を後ろについてソコを空気にさらし、指が触れ。 「つめ……たっ」 指先で感じるよりずっと冷たいバターの塊が聖のソコを刺激する。 「ん……っ」 バターが溶ける。 熱い血にあっという間に溶け、じゅうたんを汚す。 中心から滴る滴もまた。 聖の体を汚しつつあった。 「ふ……ぅっ」 溶け流れるバターを聖は自分の指でソコに塗りこめていく。 まだ残る塊を指で押しつぶせば、冷たい。 「あっ」 押しつぶした瞬間、指が脂に滑って。 中にもぐりこんだ。 「う……ぁっ」 「中はどうだい? 聖」 冷静な、声。 聖ひとりが乱れるのを楽しんでいる。 「……熱いっ」 「熱いって言ったり冷たいって言ったり、忙しいねェ」 「あ、あ……っ」 声が落ちてくる間も指は休まらない。 先だけがもぐりこんでいたはずのソコにはすでに深く、指が沈んでいた。 手首につけられた黒猫のファーが内腿をくすぐる。 時折それが先端をこすってはいいようもない快楽に、聖は身もだえする。 「もっと大きく足を開かなきゃ……見えない」 「ひっ」 柔らかい革鞭がそっと聖の足を撫ぜる。 飼い主の言葉に従った足はこれ以上ないほどに聖のソコをあらわにしていた。 「あ……ん」 「鏡にも映ってる」 ふと。 言葉に釣られて鏡が目に入る。 「あ……やっ」 そこには。 悦楽に曇った顔をした聖が足を広げて自分の指で慰める姿。 どくん。 血が熱くなる。 鏡の自分も高ぶらせている。 猫の耳をつけて。足元には卑猥な玩具をつけたしっぽがわだかまり。 「ソコ、どうなってる」 革鞭を手で嬲るように聖を言葉で嬲る。 「あ」 「あ。じゃあわからない」 「ひ……くひくして、る」 「気持ちイイ?」 嬲り言葉に。 聖は答えられるはずもなく快楽に耽ったままがくがくと首を振る。 指の動きが止まらない。 「もっと、欲しいんだろう?」 壊れた人形のように首を振り。 「じゃあそこにおしっぽがあるじゃないか」 「あ……」 忘れていた「いいモノ」が皓の言葉に思い出させられ。 欲情にかげった目はもうその事しか考えていなかった。 「あ……んっ」 手に取ればその快楽の道具はずっしりとした重みさえ感じるようで。 ぴちゃり。唇を舐める。 期待にソコが震える。体中が震えて首輪の鈴が鳴った。 「ひ……っ」 指とは比べ物にならないものが聖のソコを押し割る。 「ほら、我慢しないでいいんだよ」 猫を撫ぜる手つきと声で皓が笑う。 「下のオクチが欲しい欲しいって……切なげだ」 言いつつ皓の革鞭が聖の足を弄う。 びくん、その刺激に。 「あ、あ、あ……ぁっ」 奥まで一気に侵入したしっぽに命が芽生える。 聖の体にあわせてしっぽがのたうつ。 「う……あ……っ」 「鏡、見てごらん」 声に鏡を見れば。 欲情に呆けた顔で中心から滴をたらし、みだらな猫がしっぽをびくびくと震わせている。 「あ……っ」 ぴくん。またしっぽが揺れる。 「こちらにおいで」 朦朧とした頭で聖は這っていく。猫にふさわしく四つんばいで飼い主の元まで這っていった。 「さあ」 うなうん。 皓の膝からおろされた本物の猫が抗議の声を上げ。 その皓の足に聖がまとわりつく。 「はぁ……っ」 両手はじゅうたんについたまま、舌と唇を使って上手に皓の中心を暴いていく。 「んっ」 熱い高ぶりを欲しがる唇を少し押さえて聖はそっと舌を這わしていった。 上の方でため息が聞こえる。 それに聖は嬉しそうな笑みをもらし舌で先端をつつく。 「ん……」 ゆっくりと先端を唇で包んだとき皓の指が髪に絡んだ。 唇でする快感にぴくんとしっぽが跳ね上がり。 そのまま奥まで飲み込んだ。 「んんっ」 快楽の声は聖の喉から聞こえる。 ぴちゃりとわざわざ水音を立て皓の中心を愛撫する。 のどの奥まで飲み込んでも悦楽に麻痺した喉は痛みを感じない。 しごくように吐き出して唇を閉じ、強さをこめてまた奥まで。 「ん……んっ」 しっぽのうごめきが速くなった。 「ひぃっ」 「聖?」 突然上がった悲鳴に訝しげな声で皓が問う。 見れば内腿に溶け流れたバターを。 ぴちゃ。 猫が舐め上げて。 「ん、いた……っ」 ざらざらとした猫の舌が肌をこそげるように舐めている。 痛いのに、それさえもが追い詰められた体には刺激だった。 「聖」 なにかと問うより先に。 「んんっ」 髪に絡んだままの指が聖の頭を押さえつけ、皓の中心を深く飲み込ませていた。 逃れないよう髪をつかんだまま皓は聖の熱い唇の中、腰を進める。 上の唇と下の口と、内腿でくちゅくちゅいやらしい音がする。 「ん……っ」 苦しさより快楽に、涙が出た。 「イイよ……聖」 欲情に掠れた声が振ってきて聖の中心も耐えがたくなる。 含んだまま上目遣いに見上げれば皓の弾んだ息遣い。 押さえられた指を振りほどき先端に軽く唇を当て 「も……イきたいっ」 当てたまま、言った。やわやわとぬめった先端を言葉につれて唇が嬲る。 「聖っ」 髪がまた捕らえられ熱いものが唇に突き立てられ。 「ん、ん……んんっ」 唇と指で皓の中心を攻め立てれば一瞬。 びくんとそこが震える。 「あ……っ」 熱い中心が唇から抜ける。喪失感。 と、髪をつかんであお向けられた。 どくん。目の前のものが脈打つ。 「あ、あ、あぁ……ぁっ!」 聖の上気した顔に白い粘液がかかる。 その熱さに。 聖もまた体をこわばらせ、それからぐたり力が抜け。 熱を失っていく粘液が聖の頬から唇の間に流れ込み。 「ん……」 ぴちゃり。 猫の姿のまま聖はそれを舐め取った。 「苦い……」 ちりん。 首輪の鈴が涼しい音を、立てた。 「いい子にしてるんだよ、聖」 身なりを整えた皓がドアから出て行く。 まだ熱の残った体を長いすに横たえたまま聖は見送り。 ドアの鍵の音、それから立ち去る足音。 充分な時間を取って聖は立ち上がった。 「あ……ぁ」 片足を長いすにかけゆっくりとしっぽを引き抜く。 「ん」 かたり。硬い音がしてそれはじゅうたんに転がった。 聖が微笑う。 マタ、オシオキシテクレル? コウ……。 |