聞きなれない喧騒に目を覚ませばそこは、薄明かりの射す密室。
「……え」
 それがどこであるのか一瞬、認識できなかった潤は驚きの声を漏らす。
 裸のまま、いつものように赤い布で縛められた体を転がされていたのはワンボックスタイプの車の後部座席だった。
 フルフラットにされたそこに転がされているせいで車の中だ、とは思わなかったのだ。
「起きたね……潤」
 前部座席との間に垂らされたカーテンの向こうから吉広が顔をだし、笑った。
「ここ、どこだよ……ッ」
 少しでも縛めを緩めようと身動ぎをするけれど、そんな事で緩むようなものではなかった。
「さて。どこでもいいだろう?」
 繁華街には違いがないね、吉広が嗤う。
 その言葉に潤ははっと体を固くし、恐る恐るあたりを見回す。
 車の周りには人があふれていた。
 陽射しから受ける感覚では正午を少しすぎたあたり、というところか。
「な……ッ」
 車に寄った女が指先で窓を見ながら髪を直す。
「テメ……ぇッ」
 後部座席に移ってきた吉広につかみかかりたくとも、手が自由にならない。それに潤は臍を噛む。
「落ち着くんだね」
 笑っていなされた。
 ひとつ呼吸を深くした潤はもう一度外を見る。
「あ」
 思わずあげた声に
「ようやく気付いたかい」
 笑いを含んだ声で吉広は言った。
 車の窓ガラスにはフィルムが張られていた。
 それも単純に濃いものではない。ミラーフィルムの一番濃いものだった。
 これならば外から中をうかがわれることはない。
 かと言って「見られている」という意識がなくなるわけでもなかった。
 ぞくり、体がうずいた。
「お気に召した見たいだねぇ、潤」
 嘲笑。
 伸びてきた吉広の指が半ば勃ちあがりかけた己の中心に触れるのに身をすくめた。
「やめ……」
「やめていいのかい? 『見られてる』と思っただけでこんなにしちゃう悪い子なのに?」
 強く握られたそれは吉広のささやきにか、それとも視線への意識からか硬く勃ちあがっていた。
「く……ぅ」
 喉の奥から喘ぎが漏れる。
「ほら、潤」
 声に満足したように吉広は手を放し、そしてそのまま膝に抱えあげ。
「……っ」
 驚愕に声をあげることもできない潤の体を器用に自分の膝に抱くと、そのまま両手で潤の足を大きく開かせた。
「なに……っ、よせッ」
 潤の体は窓に向かって開かされ、他人の目に触れるべきではない部分がまっすぐ窓に向かっていた。
「こんなにしてるくせに……」
 耳元でささやく声。
 後ろから伸びてきた指が中心に触れればそこは透明な滴りを物欲しげに垂らしていた。
「や……」
「暴れると、外の人はさぞ不審がるだろうねぇ」
 抵抗を見せるたびに揺れる車。
 はっと潤が外を見れば気のせいかもしれないけれど視線が注がれている、そんな気がする。
「いいこだ」
 吉広は言い、縛めを解くと新たに潤の体を縛っていく。
 右手首を右ひざに、そして体の後ろを通して左手首と左ひざを。
 きっちりと短くされたそれのおかげで潤は膝を閉じる事も叶わなくなった。
「やめ……やだ……」
 ふるふると首を振ってわずかばかり抗う。不審を感じた人に覗かれたら、と思えば暴れることもできない。
「嘘をつくのは感心しないな……」
 差し出された指が潤の唇をたどり、思わず潤はその指に歯を立てる。
 無論、痛みを感じる性質のものではない。
 背後でかすかなうめきが聞こえた。
 指はそのまま唇を割り、口腔に侵入を果たす。
「……ふ」
 ちいさく漏らしたため息とともに指に舌を絡めて愛撫すれば、まるでくちづけのように指もまた愛撫を返し。
「たっぷり濡らせよ……」
 言葉とともに耳たぶを甘噛みされ
「……んぁっ」
 知らず体がのけぞった。
 ちゅくちゅくと淫靡な水音が車内に響く。
 舌先で吉広の指の腹を舐め、そして充分な潤いを乗せていく。
「ひっ」
 もう一方の手が中心に伸び。
「イヤラシイ……潤」
 嗤われた。
 そこはすでに根元まで透明な液を滴らせていた。
「ふ……ぁ」
 握られた中心をしごく手に甘ったるい声が漏れる。
「上も下も……やらしい音立ててる」
 唇に差し入れられたままの指を舐める水音。
 中心を弄る、粘液の勝った水音。
「やめ……」
「言われて悦んでるくせに」
 吉広の嘲笑にまた体が振るえ、どくり、中心が熱くなる。
「そんな……こと……ないッ」
 吐き出した指を軽く噛み、潤はせめてもの抵抗を。
「どこが?」
 あっさりと言い、そして吐き出された指を潤の後ろにあてがった。
「……ひっ」
 待ちかねたようにソコは指を飲み込む。
 そんな体に例えようもない羞恥を感じ、そして一瞬の後にはわけがわからなくなった。
 響きが駆け上がるような快感。
「あ……あ……っ」
 指が内壁をこすり、手が中心をしごきあげ。
「だめ……やめ……て」
 のけぞる顔を捉えられては唇を吸われた。
「ん……ん……ぅっ」
 喘ぎ声さえ漏らすことを許されず、快楽はさらに高まっていく。
「潤、外見てごらん」
 諾々と従ったのは思考が止まっていたせい。
「ひっ」
 たちまちに思考が動き始め、潤はここがどこだかを思い出す。
「放せ……やだ……ここは、やだ……ッ」
 首だけを振った。
「ほら、ちゃんと見なきゃいけないねぇ」
 従わざるを得ない声にしぶしぶとまた窓の外を見れば。
「……ぐっ」
 悲鳴をあげるのを必死でこらえ、潤は唇を噛んだ。
 ちょうど真正面で若い女が髪を整えていた。
 覗きこむようにして念入りに前髪をいじっている。
「潤……」
 耳元の声にもただ首を振るだけ。
 それなのに吉広の指は内部で蠢動を再開する。
「……ッ」
 中心の先端に軽くあてられた爪がくぼみをなぞり、危うくあげかけた嬌声を潤は己の肩を噛む事で耐え。
「見てなきゃだめだよ、潤」
 そらした視線をまた元に戻す。
 若い女の後ろで、母親に手を引かれた子供が車を指差して不思議そうにこちらを見ていた。
「やめ……やめ……」
 うわ言のように頼み込む言葉。
 それに吉広は
「嘘つきはいけないって、言ったばかりだろう?」
 そう、嗤った。
「潤の中、見られるたびにヒクヒクしてる……」
「……やめ……」
「こっちもほら、ドクって……楽しんでる……」
「ふぁ……っ」
 加えられた愛撫に思わず漏れた、声。
「イイんだろう、潤」
 中心を握った手の動きが早まる。
 潤はただがくがくと首を振って答えた。
「ちゃんと言うようにって、いつも言ってるだろう」
 そう言って吉広は後ろの指を抜きかけ。
「や……っ、イイっ気持ちい……ッ」
 答えに、快さげに笑った吉広は
「ご褒美」
 呟いては耳を噛み、深くまで指を埋めた。
「ひィ……ッ」
「あんまり暴れると……」
 それだけを言って笑った吉広に潤は唇を噛んで喘ぎをこらえた。
「潤、ちゃんと外見てるかい?」
 言われて目を閉じていた事に気付いた潤はうるんだ目を開け外を見る。
「ひっ」
 長時間の駐車に不審を持ったのか、人が車を指差していた。
「ほら、また」
 ぞくぞくと駆け上がる悦楽。吉広に指摘されるまでもなかった。
「う……あ、あ……ッ」
 先程とは違った女が鏡のように覗き込む。
「お前のココが見えてるかもねぇ」
 吉広が嗤う。
「やめ……っ」
「他人に見られて、こんなところでよがって……可愛いねぇ、潤」
「ひ……ぁっ」
 女はまだじっと見ている。
「ふ……ふ、ぁ……う……」
 吉広の指が、手が動きを早めていく。
 ぬちゃぬちゃといやらしい音がさらに高まり。
「く……ぅッ」
 女はまだそこで見ている。
「ほら、見られてるよ、潤」
 その言葉に
「ひ……ぃっ、だめ、だめ……ッ、く……イク……ぅッ」
 窓に向かって潤は白い粘液を撒き散らしていた。
 女はもう、いない。



 失神した潤を後部座席に残したまま、吉広は車を動かす。
 走り始めた車の中、哄笑する吉広を対向車の運転手がぞっとした顔で見ていた。




モドル
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