縛られるのはもう慣れた。 かと言って、気分がいいわけでもない。 相変わらずの地下室。 ひんやりとした淀みのない空気が、なぜかいつもよりいっそう冷たい。 潤は低いベットに両手を頭上で、足は広げたまま一方ずつ、縛られていた。 かつん。 足音がしてドアが開く。 聞きなれた足音。 「潤」 吉広が笑った。 なにに笑われたのかわからず、思わずきつい目をして見返す潤の裸の胸をつ、と吉広は指先で触れ。 「……ッ」 知らず体がびくり、反応する。 「待ってたんだろう? 潤」 「待ってなんか……ッ」 「いない、とは言わせないよ。ココが……期待してる」 身元でささやかれた言葉。 するりと伸びてきた指がかすかに触れた己の中心。 「ん……」 勃ちきっていない敏感なモノに触れられてあがった声に吉広がにんまり、笑う。 「さぁ……」 かりり。耳を噛む。 「はじめようか……」 甘く苦いその声に、潤の鼓動は早まった。 決して自ら認めはしなかったけれど。 吉広の手が持ってきた長いものをするりと解く。 「……あ」 「覚えているだろう?」 赤いもの。 長いもの。 「お前にはじめのころ使っていた、あの目隠し」 羞恥と反抗と、そして快楽と。 一度に思い出す様々な行為。 「潤」 呼ばれた声だけではなく、記憶に体が刺激され。 吉広は呆然としたままの潤に手早く目隠しをしていく。 日焼けをしていない肌に赤い目隠しはよく似合った。 悪態のひとつでもつきたげな唇が声も出せずにうごめいている。 それに吉広はくちづけた。 「……ふぁ」 柔らかいくちづけにとろけたような声。 「おとなしくしてるんだよ、潤」 笑いを含んだ声が言う。 「ひっ」 言われたそばから身をよじった。 「だめじゃないかねぇ」 「だっ……て!」 「じっとしてろ」 有無を言わさぬ口調。 体の上に落とされた得体のしれない冷たいもの。 柔らかい、液体ではない感触のものが肌に、それも敏感なところを選んで落とされていく。 「な……やめ……」 冷たさに勃ち上がった胸の突起を吉広が笑いながら指で嬲る。 そしてそこにも冷たいものが置かれていく。 見えない。それがこんなにも不安を煽る。 正体の知れないものは胸に、臍に、腰に。広げられた足の内腿にも。 冷たさに感覚の薄れ始めたころ。 「見てごらん」 目隠しがとられた。 「……え」 体が白いもので飾られている。 冷たいものの正体。 「今日は……何の日だっけねぇ、潤」 「……クリス、マス……」 「最高のケーキじゃないか」 吉広が哄笑した。 体中に乗せられた白くつめたもの。 生クリーム。 冷たさに気づかなかったけれどいつのまにか、とりどりの赤い果物まで飾られてまさに、ケーキ。 「さあ、楽しませてもらおうか」 指ですくったクリームを潤の唇に押し込み。 「美味しい? 潤」 再び笑った。 汚れる、とばかりに服を脱ぎ捨てた吉広がベットの端に腰をおろし、縛められたままの潤を見下ろす。 「どこから、いただこうかねぇ」 「やめ……これ、取ってッ」 身動ぎして嫌がるもののしっかりと縛られた体はそう簡単に動けはしない。 「だめ」 一顧だにせず吉広はそのまま唇を飾られた胸に。 「ひっ」 クリーム越しのもどかしいような感触が伝わる。 じれったい。 そう思った時、かっと頬が熱くなる。 こんな事をされているのに、待っている。 「ほら、潤」 クリームに汚れた唇が唇に重なる。 「……甘い」 聞かれる前に潤が答えた。 「いい子だ……」 言って指がはげてしまったクリームの下、胸のあたりを摘まんで嬲る。 「あっ」 あがる声に吉広は唇を移動させ。 下に。下に。 「ひ……だめ……ソコは……ッ」 ぴちゃり。 制止など聞く耳持たず吉広が内腿のクリームを舐めあげ。 「う……ぁッ」 吉広によって敏感にされた部分。 動けもしないのに身をよじった。 快楽に囚われそうで。 「イイんだろう?」 足の間で吉広が目だけで笑って問い掛ける。 そんなことはない、と首を振ってもまだ彼はそのまま。 「クリームが、溶けてるよ。潤」 「え……」 「あんなに冷たいって喚いてたのに、イイんだろう? 肌が……熱い」 言葉に。 偶然ではあろうけれど、つるり、クリームの塊が肌から、ベットへと滑り落ちていった。 「あ……ぁ」 「ほら、赤くなってる」 「そんなこと、ない……」 「どこが?」 笑う吉広が再び内腿に舌を這わせ、言葉は途切れ声があがる。 「ココだってヒクついてるくせに」 「んぁ……ッ」 舌がそのまま後ろに触れる。 柔らかくて熱い舌がそこに触れただけで体中に刺激が走る。 「ほら、潤。ココが欲しがってる」 舐めあげる合間に吉広がささやく。 「やめ……言う……なよッ」 「じゃあ自分で欲しいって言ってごらん」 「……なんでっ」 そう問うてはみたけれど、なぜも、なにもない。ただ言わせたいだけだと潤は知っている。 自らの口で言わない限り責めが続くとも、知っている。 「……言わないッ」 「面白い……」 にやり笑って吉広は唇を別の場所に這わせ始めた。 中心に。 「うぁッ」 完全に勃ち上がった中心に吉広はクリームを唇でなすりつけていく。 「……あ……くっ」 唇の柔らかい感触がたまらなかった。 「すぐ、溶けるな」 中心の熱さにクリームがすぐに溶ける、と。 呟き声が耳に入っては一層、体が熱くなる。 ぴちゃり、ぴちゃり。 高い音を立てて舌先が丁寧に舐め始めた。 「……ッ……うぁ」 縛められた腕の柔らかい布をつかんでは快楽に耐え。 「は……ぁッ」 弓なりに反る背中。 根元までゆっくりと飲み込まれていく。 咥え込まれた口の中、舌が動く。 「ひ……ッ……だめ……だめッ」 とろり。溶け出すクリームが滑り落ちる。赤い果物がつられて落ちる。そんなささやかな刺激でさえ、すでに耐えがたい。 「……ッ……く……イく……ぅ」 膨れ上がった中心が口の中に精を吐く、その感覚。 甘い舌がしごきあげ、一滴残さず搾り出そうとする、快楽。 「あ……あ……あ……」 虚脱する潤の口元にあてがわれた熱いモノ。 「お前だけは、ずるいねぇ」 縛られたてた腕の布がはずされる。 足だけ縛められた不自由な姿勢で言われるまでもなく潤の唇が吉広のそれを飲み込んだ。 充分に最後の近い吉広のそれ。 潤は自分の体からクリームの残滓をとっては唇に乗せる。 そのまま彼がしたようにクリームを中心になすりつけ。 「……く」 溶け出す前に舐めとった。 じゅる。 わざと音を立てるのも、吉広のやりの方。 なのに煽られるのは潤の方。 「……ん」 知らず鼻にかかった甘い声があがる。 舌で先端のくぼみをつつけば吉広がぴくり、反応する。 「潤」 いつのまにかクリームまみれになった髪を指が梳く。 そのまま押さえつけ。 奥まで飲み込んだ中心に喉が痛い、むせそうになるのをこらえれば唇で強く根元を締め付けることにもなり。 「イイ、潤……」 緩められた指の力に潤は動きを再開し。 唇のゆっくりとした動きに、段々と吉広が堪え難くなっているのがわかる。 どくん。 中心が弾む。 「離せ……潤ッ」 離そうとする吉広の腰をしっかりと抱いたまま、潤は彼を追い込む。 舌先で嬲り、唇で締め付け。 「く……ッ」 膨れ上がった最後の瞬間。 「潤ッ」 唇を離した。 熱い滴りが顔にかかる。 目を閉じたそれを受け止めた潤。ゆっくりと目を開けそして。 にやり笑って舌先が滴りを舐めた。 「……まだ、満足できないらしい」 吉広もまた同じ笑みを返す。 ベットに押し倒し、残骸に成り果てた果物を潤の唇に。 そして下の口にも。 「んぁっ」 突然の冷たい異物に身をすくませ。 「足らないんだろう?」 ささやかれた言葉に。 「足りるわけがない……」 ささやき返しては彼の首に腕を絡ませ。 饗宴は、終わらない。 |