目覚めたのは木の根元だった。 ほの暗い木の下闇に視界を惑わされ、目を上げれば木漏れ日がちらちら。 「ふ……」 青年は若いぶなの木に手をついて半身を起こす。 きちんとした身なり。 折り目のついた袴をつけ、着物の襟元はきっちりと合わせられている。 どこから見ても身分高い武家の若者だった。 しかしその年齢には似つかわしくない前髪立ちのその姿。 なんの理由があって元服が遅れているのか、青年はいまだ艶やかな前髪を残したままだった。 「左京……」 山の彼方のまだ遠く、妖狐が棲むと人は言う。 薄暗い森の中、怪しのものがうごめくと。 人の身で訪ねるべき場所ではなく、また訪ねようと思って訪ねられる所でもなかった。 辿り着くにはただ、欲望を抱くのみ。 あるいは強い、想い。 ざわり、ぶなの枝が騒ぐ。 まるで 「左京」 の呼び声に反応するかのように。 青年は驚いたように身を引き、ためしにもう一度呼ぶ。 「……左京」 応えるように枝が鳴った。 それとともに。 枝とは違う音が鳴る。 枯れた落ち葉を踏みしだく、音。 足音、だった。 「誰だっ」 彼は振り向き、そして硬直した。 そこに立っていたのは人ならざるもの、銀の髪に金の瞳の秀麗な男。男には銀色をした耳と尻尾が、狐の耳と尾が。 「面白いものがかかったねぇ」 男、言うまでもなく妖狐はそう言って、笑った。 「な……」 古老の昔話だと信じて疑わなかったあやかしが目の前にいる。 さも楽しげに耳をぴくり、動かしてこちらを見ている。 「ふぅん、右京と言うのかい」 青年の顔が青ざめ。 妖狐は彼の名を当てた、いや読んだのか。 「お前は左京の兄か?」 「弟をどうしたッ、返せ今すぐ」 左京、の名に逆上したか右京は妖狐に掴みかかりかけ、それをふうわり妖狐は避けた。 動いた、とも見えない動き。 からかうように銀の尾が右京の頬を撫で。 「どうもしないねぇ。あの子は好きでこの森に入ってきたんだから」 「……どこにいる」 「さぁてね」 妖狐は笑う。 「お前の寄りかかっていたその……ぶなの木になってしまったのかもねぇ」 そう言って、哄笑した。 「貴様ッ」 再び飛びかかろうとした右京の体が不自然につんのめる。 地面に手をつきかけ、それもかなわなかった。 それなのにどこを傷めることもなく。 「え」 体に蔦が巻きついていた。 毒々しい緑の蔦が妖狐へのわずかな道を阻み、体中を拘束する。 振り向けばそれはぶなの木から這っていた。 「ほぅら、ぶなが離れたがらない……」 妖狐が嗤う。 ずるずると右京は引きずられる。ぶなの方へと。 ぶなは枝をざわめかせぐいと下に伸ばした。 まるで右京を抱くように。 「ば、化け物……っ」 身をよじり枝から逃れようとするも蔦がしっかり押さえつけていては逃れられるはずもなく。 「おやおや化け物はひどい。弟が悲しむよ、右京」 もがきながら振り返り、ギリギリと妖狐を睨みそれから怯えた目でぶなを見る。 「……左京だっていうのか」 声にぶなは枝を震わせ。 それは歓喜に、見えた。 「左京……左京なのか……? なッ」 戸惑いながらもいとおしげに木肌を撫でていた右京が驚きの声を上げる。 「止せ……やめ」 蔦がぬるり、頬をかすめ。 振り払おうと上げた手はそのまま高く蔦に縛められ。 「やめろッ」 ほどこうとしたもう一方の手まで高手小手に縛られた。 「左京はずっと恋しい兄上さまにこんな事をしたがっていたんだねぇ」 「馬鹿なことを言うな」 「おや信じないならばそれもいい……」 妖狐の嘲笑にびくり、蔦が痙攣した。 突然、蔦がつたのまま別のなにものかに変わる。 どくり脈打ちしなっては怪しげな動きを。 「……ッ」 何本もの蔦が強くあるいは弱く体を締め付ける。 「なっ……ひぃっ」 ぬるぬるとした分泌液を滴らせながら蔦が侵入する。袴の裾からきちんとした襟元から。 青い、何物かに似た匂いのする液体が頬に塗られとっさに右京は顔を背ける。 と、そこに待ち構えていたぶなの枝が。 枝は枝ではなく、柔らかい先端と体温に近い熱さを持っていた。 「ん……ッ」 唇に押し当てられた枝。 顔の向きを変えようとしても蔦に押さえられてかなわない。 きつく結んだ唇に業を煮やしたかぶなはもう一本の枝を下ろし、しっとりとした厚みを持ったぶなの葉が右京の鼻をふさぐ。 「ふは……んぐっ」 息苦しさに開けた唇。それを逃さず枝は侵入を果たした。 枝が口の中を犯す。 熱い、人体のようなそれが右京の舌を嬲り、弄う。 唇に押し入り、ゆっくりと引き抜き。 さらさらとした葉が髪をかすめる様はまるで人が髪を撫でるかのようだった。 「ほぅら右京。ねんねのふりはいけないねぇ。ちゃんと楽しませてあげなくては」 嘲う言葉に振り返ることもできず、代わりに枝を噛み切ってやろうかとも思ったがもしもこれが「弟」だったらと思うとそれも出来ない。 苛立ち紛れに軽く噛めばとくん、枝が弾んだ。 「そうそうその調子。さすがあの左京の兄上さまだ。上手だねぇ」 またも嗤われ、それが愛撫の行為だったと気づく。 快い唇の摩擦に知らず舌先で枝を舐め。 とろり枝から流れた液体は甘かった。 「……ん、ふぅ」 枝の粘液よりもなお甘い声。それが自分のあげた声だと右京は思いもしない。 「や、め」 解放された唇から意識してあがった声は体中を這いまわる蔦への声。 唇を嬲られている間に蔦は袴の紐を器用にほどき足元にわだかまらせ、固い着付けの着物すらぐずぐずに崩し終えていた。 着崩れた着物の裾からのぞく白い脛が欲情に紅潮している。 胸元に入り込んだ蔦は二本がかりで着物を大きく広げ、先端から染み出す液体で肌を汚す。 「ひゃっ」 前髪立ちの頭を振って暴れても逃げられるはずもない。 汗に前髪が額に張り付いた。 「……んッ」 蔦がついに胸の先端に触れ、右京はきりりと唇を噛む。 「なにも我慢することはないのに」 そんな妖狐の声も耳に入らない。 一瞬でも気を弛めたら、そう思うとただ血が滲むほどに唇を噛み続けるだけだった。 ぬるぬるとした蔦が両方の先端をそっと撫ぜ、時に押し込める。 血の滲みでた唇に再び枝があてがわれ、嬌声をあげるよりはましと右京はそれを自ら含んだ。 と、その瞬間。 「んぐ……っ」 唇をふさがれているにもかかわらずあがった声。 裾から入り込んだ蔦が右京の内腿を撫でまわし、ついに中心に絡みつく。 同時に胸を弄っていた蔦はぱっくりと口を開け突起を含み。 「あ、あ、あ……」 唇から枝が抜かれたのにも気づかず右京は途切れ途切れの声を上げ。 中心がどくどくと血を滾らせ、ただ「そのこと」しか考えられない。 「あん……っあぁっ」 右京は体を反らし。 蔦が割った足の間から後ろを嬲りはじめていた。 ぬらぬらとした液体がソコに塗り付けられ、細い蔦が舐めあげるようにちろちろと弄う。 「あ、やめ……や……」 いつのまにか帯も解け、ただ羽織るだけになってしまった着物から肌がのぞく。 全身に浮かんだ血の色。 「イイくせに」 ながめ嗤う妖狐の存在をようやく思い出した。 「見るな……見るな……ァァァッ」 のたうち体を隠そうとすればするだけ着物がはだけ。 「しっかり最後まで見てあげるよ、右京」 失神するほどの羞恥に、いっそ意識を失いたい、そう思ったとき足になにかが当った。 「な……」 そこにはいままであったはずもない百合が。 白く穢れを知らぬ色をしてつぼみを付けている。 百合は突如動き出し、足に擦り寄ったかと思うとすぅっと丈を伸ばし。 「あ……っはぁっ」 蔦の粘液に濡れたソコにそっとつぼみを触れさせた。 「ほぅら、こっちも」 妖狐の声にあわせるようにぶなの枝がまた唇を割る。 唇の感触にとろり思考が飛んだ。 その合間にも蔦がするすると動いては最後に残った着物を右京の体から奪っていく。 腕の縛めをほどかれまた縛られ。 高く腕を上げて縛り付けられた右京。 隠すものとてなく妖狐に無防備な背中をさらし、体中には蔦が這う。 枝を咥えさせられ中心にも蔦が絡み、ソコはソコで百合が愛撫し。 人の身に加えられる快楽ではなかった。 「良くて良くてたまらないんだろう。右京」 妖狐の声にぶなが別の枝を伸ばし右京の体を引き寄せる。 「ほらそこに……熱くて、きつい……」 妖狐が笑った気がした。 そのほんの瞬きの間ほどの時間、ぶなの木が弟に、左京に見え。 左京が誘っていた。いや、そう見えた。 「あぁぁぁぁ」 理性もなにも忘れ、左京のいやらしく誘うソコに腰を進め。 「あぁ、あ、あ、あっ」 熱くてきつい。妖狐の言う通りの、ソコ。 抱きついた感触の異様さに目を開ければそれは。 ぶなの木。 「言っただろう、木になったのかもしれないって」 嗤う妖狐の声ももうどうでもいい。 右京を包むぶなの木はたまらない快楽を与えてくれた。 「ひぃっ」 動きを止めていた百合が不意に。 「あ、あっ」 活動を始め。 中心に与えられる快楽に緩んだ右京のソコにつぼみがゆっくりと侵入する。 蔦に開かされた足の間、真っ白いつぼみが飲み込まれていく。 「やめ……ッ、はぁ……んっ」 抵抗は中心に加えられた悦楽であっさり封じ込められた。 「全部入ったねぇ。兄弟そろっていやらしいことだよ」 中に入り込んだつぼみが動く。 「や、やめ……やめ……」 味わったことのない快感。 中心とソコの両方から襲う快楽に腰が砕けそうになる。 がくがくと震える体を蔦につなぎとめられた。 「あっあぁっ……ああっ!」 つぼみが。少しずつ体の中で咲いていく。 ほころんだ花弁が内壁をえぐる。 「だめ、やめ……」 中心を包むぶなはその内部の律動を早め。 「弟を抱きたかったんだろう?」 頭が否定する事すら考え付かず 「抱きたかった……そうだ抱きたかった……左京ッ」 律動にあわせ腰を突き入れ。 ぶなの木が蔦が百合が。 すべてが右京の体から悦楽を引きずりだす。 「さきょ……あぁっ、左京ッ! くぅっイク……イクぅッ!」 体を弓なりに反らし、硬直し。 ぶなの中に注ぎ込む。吸い付くようにぶなの内部はうごめき最後の一滴までを搾り出す。 「あ、あぁ……」 苦しい喉に息を送り込んだ右京の体からぬたり、百合が這いだす。 ひとつのしみさえなかった白いつぼみは、この世のものではない怪しげな紫に変貌し、右京の体液にぬらぬらと、光った。 「ひっ」 ゆったりと開いていく百合の花。右京は失神し。 「人間はおろかだねぇ。人が木になどなるものか……」 強いて言うならこの森に飲み込まれたのさねぇ。 妖狐は馬鹿馬鹿しげに呟き、銀の尻尾を振ってはきびすを返す。 もちろん右京にその声は届いていなかった。 |