タイラントは時々城を抜け出して城下に歌いに行く。本人はこっそり行っているつもりだろうけれど、シェイティには手に取るようにわかっている。 「まぁ、息抜きくらいならね」 もう少し魔法に身を入れて欲しいと思いはするものの、吟遊詩人でもある。あまり歌わなければ気が滅入って仕方ないだろう。 だからその日もタイラントは抜け出していた。シェイティはいつもならば適当なところで迎えに行くのだけれど、今日はどうにも仕事が山積みになっていて行かれそうにない。 ようやくあらかた仕事が片付いたころ、タイラントが戻ってくるのを感じた。それも何かずいぶん楽しそうな気配がする。 「あの馬鹿」 何度言っても感情が筒抜けになっている。もっときちんと制御しろ、と言っているのだけれど、吟遊詩人にそれを言うのは無駄かもしれない。 「シェイティー」 朗らかな声を上げて向こうからタイラントが走ってきた。所々に倒れて眠り込んでいる魔術師を器用によけて駆ける様など、ずいぶん星花宮に慣れたものだ、と妙な感心をしたくなる。 「おかえり」 「ん、ただいま」 目の前まで走ってきて息を弾ませている。黙って微動だにせずに立っていれば絶世の美青年で通るのに、こういう顔をするとどうにも締りがない。が、シェイティは嫌いではなかった。 「なに」 「それって俺の台詞かなぁ、なんて。なに、シェイティ。俺のことじっと見てなかった?」 「僕が? 馬鹿なこと言わないで」 鼻で笑ってもタイラントはこたえなかった。くすくすとさも嬉しそうに笑われてしまってシェイティは身の置き所がなくなる。 「それよりさ――」 二人並んで部屋まで歩く。今日は別にもう用はない。仕事はとりあえず全部片付いた。だから部屋に戻っても責められるいわれはない。そんな風に言い訳をしている自分がどこかおかしくてシェイティは内心で笑みをこぼす。 「なに。言いたいことがあるならさっさと言えっていつも言ってるじゃない。それともあなたの頭はそんなことも覚えておけないほど中身が空っぽなわけ? あぁ、ごめん。空っぽだもんね、覚えとけるわけないか」 「シェイティ……」 「なに」 冷たく言えば、隣の男は情けなさそうな顔をしていた。眉まで下げて今にも泣き出す寸前。けれどこの男は吟遊詩人だった。 「ほんとさー、君って」 シェイティが騙されてくれそうにない、とタイラントは溜息をつく。 「どうしてそう滔々と文句を言うかな」 「言わせてるのは誰なの」 「そりゃ俺だけど! でもさぁ。ほんと、どうしてそんなかなぁ、君ってやつは」 「簡単じゃない」 部屋の扉を開けてシェイティは体を滑り込ませる。しばらくは誰にも邪魔をされたくない。よって、自室にいるところを見つかりたくなかった。そう思っていることなどタイラントは気づいているのか、いないのか。 「どうして?」 きょとんとした純な顔。こちらが本来のものだとわかっていてさえ、時折はまだあの真珠色の竜の表情と錯覚する。好んでいるからだ、とシェイティだけは知っていた。 「僕がカロルの弟子だから」 さらりと言った言葉にタイラントが悲鳴を上げる。カロルと名を聞くだけで悲鳴を上げる癖はなんとかしたほうがいいと思う。別段どうと言うこともないのだが、リオンが内心では不快に思っているらしいこともシェイティは気づいていた。 「まぁ、当然だよね」 「だろ!? 怖いもん、やっぱり!」 「そっちじゃない。あなた、その癖。直しなよ」 「え――」 「カロルのこと怖がるの。別に僕はどうでもいいけど、あなた、リオンに嫌がられてるよ」 「え、嘘! リオン様が!?」 「別に信じなくってもいいけど。ふうん、そうなんだ。いいけど、別に。でも僕のこと、信じないんだ、僕の可愛い小さなタイラント?」 目の前でシェイティがにっこりと微笑んでいた。だからカロルが怖いのだ、とシェイティに言ってもたぶん、否、間違いなく通じない。 「いや信じるけど! でも、どういうこと! どうしてリオン様が――」 「あのね、タイラント。考えなよ。もしも僕の影を見るだけで怯えて悲鳴を上げる人がいたら、あなたはどう感じるわけ?」 「あ――」 「リオンの馬鹿はボケてるからね。そんなこと匂わせもしないし普段からへらへら笑ってばっかだからあなたも気づかなかったと思うけど」 「……リオン様」 しゅんとしてしまったタイラントだった。だがそこに吟遊詩人の演技はない。いずれ近いうちにタイラントはリオンに話をするだろう。あとは二人の問題だった。 「まぁね、無理だと思うけど努力はしな。あなたがカロルを怖がるのはやむを得ないとしても、努力するなら買わないようなクズでもない、リオンは」 「うん、頑張る。なぁ、シェイティ。いっつも俺、君やリオン様やカロル様に迷惑ばっか――」 「僕は迷惑だとは思ってないし、リオンは知らないけどカロルもそうじゃない? 弟子が何かやらかすのなんか星花宮の伝統みたいなものだし。気にしてたら大成しないよ」 「……それはそれで嫌な伝統だな」 「同感だね」 口許でシェイティが笑う。いつもこうして許されてしまうことをタイラントは身を焼く思いで感じていた。きっと自分が話すより先にシェイティはリオンに取り成してくれるのだろう。それを思えば更なる努力をするしかない。ぎゅっと拳を握り、タイラントは顔を上げる。 「そうだ、シェイティ。お土産があるんだ」 偶々似合いそうだと思って買ってきたのが今日でよかった。謝罪とお礼になるだろうか、こんなものが。そうタイラントが差し出したものにシェイティは顔色を変え、タイラントの表情を窺い、そして長く深い溜息をついた。 「この、馬鹿……」 地の底まで潜って行きたいとでも言いたげな溜息。タイラントはなぜそこまで落ち込まれるのかがわからなくて慌てた。 「あの、その、シェイティ……?」 「この馬鹿! ほんと、あなたどういうつもりなの! わかってやってるんだったら殺してやろうかな。わかってないみたいだから許すけど。だいたい、どこに歌いに行ってたわけ!」 「あの! 普通に下町!」 「へぇ、下町! 普通の下町のどこでこんなもの買ってくるの!」 タイラントが差し出したものをシェイティは取り上げる。大ぶりにもほどがある腕輪だった。ただ作りは華奢で繊細だ。銀の細工の外側には幾つもの鈴がつけられていて、振れば涼しい音がする。 「いや、だって! 売ってたしっていうか、どうですかって勧められて! 君に似合うなって思って!」 「あぁ、そう。僕に似合うね!」 「そりゃ、ちょっと女物っぽいけど! あ。でも君には少し大きすぎるかな。うん、直してもらってくる。それでどう、シェイティ?」 「問題はそこじゃない」 一刀両断するシェイティに、さすがのタイラントも怯む。普段から繰り広げている口喧嘩とはどうにも違うような気がしてきた。 「あなた、これが何か本当に知らないで買ったわけか。まったく、売りつけるほうも売りつけるほうだよ」 溜息にかすかに笑みが含まれていた気がした。それがシェイティの和解なのか、タイラントにはわからない。 「まぁ、いいよ。許してあげる。来な」 「え? シェイティ、どこってそっち寝室!?」 「実演してあげるって言ってるの、来ないの、タイラント?」 「行く行く行く、行きます!」 なにがなんだかよくわからないが、どうやら突如としてその気になったらしい。タイラントは笑みこぼれつつシェイティの後姿を追った。 「閉めて。ついでに封印して」 「封印まで? 別にいいけど」 寝室の扉を閉めろ、まではわかるが封印するのはやりすぎではないだろうか。そう思いつつタイラントは彼に従う。 「僕は見られたくないの、わかる?」 「まぁ、そりゃ俺だって覗かれるのは勘弁してって感じだけど」 「僕は絶対に見られたくないの」 鼻を鳴らしてシェイティは寝台のそばに立つ。そしてタイラントを見つめて微笑んだ。 「え――」 雰囲気が突然に変わる。息を飲むタイラントの目の前、シェイティが目を細め、視線を外す。ゆるりと服に手をかけ、肌から滑らせていく。 「あの……シェイティ……」 「見たいんでしょ。見せてあげるよ」 滑り落ちそうで落ちないその絶妙さ。タイラントが唾を飲む。シェイティはくすりと笑って肌をさらす、一歩前。 「シェイティ!」 「まだ、だめ」 悲鳴じみた声を上げ抱きすくめようとしてきたタイラントを彼はかわして笑った。その様も普段とは打って変わった妖艶さ。 するりとタイラントをかわしたシェイティは下肢の着衣から先に落とす。ほっそりと引き締まった足、その素肌。 「タイラント」 呼び、自らの指先で唇に触れる。その指先が喉をたどり、肩へと。肩先があらわになる。 「シェイティ――」 生唾を飲み込む音が聞こえたのを合図にするよう、シェイティは全身の素肌をさらした。 「ねぇ」 寝台にしどけなく横たわる。タイラントを手招く。 「シェイティ!」 それなのに飛び掛ってきた男をシェイティは笑ってよけた。艶かしい手が、タイラントの衣服をはいでいく。そのたびにかすかに触れる指先。タイラントは息を荒らげる。 「ほんと、可愛いよね。こんなにはぁはぁしちゃって」 ちゅ、と音を立ててタイラントにくちづけた。柔らかく甘く香るシェイティの肌にタイラントは顔をこすりつける。その体が強張った。 「だめだ、シェイティ――」 「どうして? 楽しませてあげるって言ってるのに」 「でも――」 体を滑らせたシェイティが、足の間にいた。膝立ちのままのタイラントを見上げて彼の目が笑う。 「でも、あなたが僕のこういう態度で動揺するなら、やめようか?」 「そんなことない! 動揺なんかしてない! っていうか、してないつもり!」 「してるように見えるけど?」 「それは君が珍しく乗り気だから!」 「いつも嫌々だってわけじゃないんだけどね。いいのね? 続けるけど?」 「続けてくださいお願いします」 「って、この体勢で言われてもね」 もっともだ、とタイラントは思った。実に間が抜けている。だがタイラントは詫びなかったし、情けなさそうな顔もしなかった。代りに。 「だったら黙って舐めてよ」 ぐい、とシェイティの頭を押さえつける。自分の腰に。いきなりすべてを飲み込まされてシェイティがくぐもった声を上げた。 「苦しい? そんなことないよね。君だって嫌いじゃないんだし」 答えの代わりにシェイティの舌が蠢く。ざわざわと背筋を駆け上がるもの。タイラントは仰のいて息を放つ。 「もっと舌使って。うん、うまいよ、シェイティ……。あ――そこ」 ゆっくりと吐き出して、また飲み込む。ちろりと舌が動いてタイラントの好む場所を探っていく。 「シェイティ……」 タイラントの手が彼の腰へと伸ばされる。そこで見つけたものに彼はにんまりと笑みをこぼした。 「すごいな、シェイティ。しゃぶってるだけでこれ?」 「ん――」 「こんなに硬くして、先まで濡らして」 「うるさい、な……」 きゅっと掴まれた物にシェイティは眉根を寄せる。半開きになった唇にタイラントは己の物を擦り付けた。 「ん、や……」 「いやじゃないでしょ、これ。好きでしょ」 再び口の中に収めれば、熱心な舌。わざとらしい水音までさせてシェイティは唇を動かした。 「そんなに好きなんだったら、代ってあげなきゃね」 言い様タイラントはシェイティを突き放す。寝台の上に上手に転がったシェイティは眼差しで男を誘う。 「舐めてあげる」 言えば身をよじって逃れる。シェイティの媚態とわかっていてさえ煽られた。 「やめて。いや」 「嘘。して欲しいって、こっちは言ってるけどな。俺には聞こえるけど?」 軽く握られた己自身にシェイティは息を飲む。唇が寄せられ、息が吹きかけられる。 「じらし方がやらしい!」 「当たり前じゃん。やらしいことしてるんだもん」 「うるさいな! さっさとしてよ」 「違うでしょ、シェイティ。して欲しいって言ってよ」 「別にしてくれなくってもいいけど?」 顎を上げ、シェイティはゆっくりと唇を舐めて見せた。仕種にタイラントはぞくぞくとする。一も二もなく、嘆願など聞く気にもならず彼自身に唇を寄せた。 「あ――」 仰け反ったその姿。細い体が折れてしまいそうなほど、シェイティが悦びの声を上げる。タイラントは先端のぬめりだけを何度も舐め取るよう、舌を動かす。 「ん、や……」 「なに、シェイティ?」 「――と」 「聞こえない」 「もっと、して」 すんなり言って見せたシェイティにタイラントはにやりと笑った。 「そんなにして欲しいの? こんなすぐに言うの、珍しいね」 「うるさいな――」 罵言は最後までも言わせなかった。口の中に飲み込めば、声もなくシェイティが震えた。 「ん、あ。や……」 身をよじり逃れようとする体を逃がさない。そのタイラントの耳許で、涼しい音がした。 「え、なに……?」 音のほうへと顔を向ければ、シェイティの足。 「だから、実演。するって、言ったじゃない。――聞いて、なかったわけ?」 途切れ途切れのくせに今度は最後まで言ってのけた。その態度にタイラントは思わず笑ってしまう。 「これって、こういう風に使うものなんだ?」 そう言ってシェイティの足首を弾いた。また音がする。彼の足首には、タイラントの土産の飾り輪がはまっていた。 「腕輪かと思ってたよ」 音を立て、シェイティの物にくちづければ、跳ねる体。そのたびに飾り輪の鈴が鳴る。 「こんな腕の太い女、いるわけないでしょ」 「男物にしても、太いか。そっか、こういうもんなんだ」 「あ、やだ」 もういいだろうとばかり外そうとするシェイティの手をとどめ、タイラントは彼の物を舐め上げた。ちりちりと、うるさいほどによく鳴った。 「君が感じると音がするってわけか。けっこう楽しいかも」 「だから……こんな、性具、どこで――買ったのかって、言ったの!」 「あぁ、そっか」 「だから! タイラント、そこ、だめ……!」 「嘘だねー。すごい気持ちいいって、鈴が鳴ってる」 今度こそ本気で逃れようとしたシェイティを捕まえ離さない。そのままにんまりとしてタイラントは彼の足を抱え上げる。 「ちょっと、タイラント! なにするつも――」 「わかってるくせに。せっかくだもん、君も見たいでしょ?」 シェイティの体を折るように足を抱えた。高くなって苦しそうな腰の下には枕をあてがえば、シェイティは逃げることもできなくなる。 「タイラント――、ちょっと……!」 声はなくなった。代わりに鈴が激しく鳴った。両足を大きく広げさせ、タイラントは彼を口に含む。含んでいるところが、彼にはっきり見えるように。 「ほら、見られて恥ずかしい」 口から吐き出し、舌で舐め上げる。顔をそむけようとするシェイティを眼差しで絡めとる。 「シェイティ」 動きにくい体で、彼が跳ね上がった。タイラントが後ろに香油をたらす。そのままぬぷりと中に指を沈めた。 「ん。あ――」 タイラントの指が、自分の中に埋まっていくのをシェイティは見せつけられていた。足が跳ねるたびに鈴が鳴る。 「ね? 気持ちいいんでしょ、シェイティ?」 タイラントが笑顔で指を動かした。足は跳ねなかった。けれど鈴は鳴った。痙攣するような鈴の音。タイラントはにっこりと微笑む。 「あ、やめ――! だめ、タイラント。そこ、だめ!」 「ここ?」 「だから、だめ――。中、動かさないで……ん。掻き回すな――馬鹿!」 「でも、いいんでしょ? 君はいやだって言っても、鈴は鳴ってるしね。こっちも――やめないでって、ほら。絡み付いてくる」 その様を見せようとばかり、タイラントはゆっくりと指を引き抜く。シェイティは息を止め、体を震わせた。 「イキそう? でも、だめだよ、シェイティ。もっとして欲しいでしょ?」 「う、るさいな――!」 「あれー。なんて言ったのかなー。シェイティ?」 笑顔のまま、タイラントは指を増やして一気に埋めた。呼吸を止めて仰け反る体。激しさを増す鈴の音にタイラントは彼の足首にもくちづけた。 「シェイティ。言って」 香油の、粘つく音がする。鈴の、涼しい音がする。シェイティの唇がわななく。男の惨さに理性が溶けた。 「――して」 「なにを?」 「僕の……」 タイラントが体を起こし、シェイティを上から見下ろす。銀髪が、彼の顔に影を作る。ひどく酷薄で、なぜかどうしようもなく心が震えるその姿。 「僕の……」 唇を舐め上げ、体を離したタイラントを追いかけて、止まる。代りに自分の足を抱えた。自らの手で、両足を広げる。 「ここに――」 片手はそれでも後ろを隠していた。見られたくないのではない。シェイティの媚態だとタイラントは知っている。だから、無造作に手を外させた。途端に鳴り響く鈴。 「挿れて」 言葉と共にタイラントが襲い掛かった。顔の両側に銀の滝。シェイティは息を飲み、鈴が鳴る。埋められた物のその熱さ。 「――く、ふ……あ」 両足がタイラントの背に絡む。彼の呼吸が耳許が聞こえた。 「シェイティ。君が好きだよ」 囁かれた声の甘さとは裏腹な腰。激しく突き立てシェイティを苛む。 「だから」 言葉を切り、けれど言葉などはじめから要らなかった。タイラントは言葉の続きのよう、動いた。ゆっくりと、愛のように優しく。 「や。だめ。タイラント」 「なにがいやなの? 君がして欲しいことをしてあげる」 「そこ、いや。だめ」 「だから、してあげる。ここ、いいんだよね? ほら、こんなになってる」 腹の下にある彼の物を掴めば掠れた悲鳴。それに合わせるよう、腰を打ちつけた。 「だめ、タイラント。もうだめ。ねぇ、だめ。ねぇ」 うわごとのような言葉。タイラントが唇に自分のそれを重ねれば、貪られた。ぴちゃぴちゃと、シェイティらしくもなく夢中に。 「あ、や。だめ。もっと。――タイラント、もっと。そこ。あ……そこがいい。ん、あ。は――」 唇だけではなかった。腰もまた。食い尽くそうとばかりに自ら動く。 「シェイティ――」 眉を寄せ、タイラントの腕に力が入る。ぎゅっと抱きしめれば体ごとすがりついてくる。そのくせ腰の動きだけは止まらない。 「シェイティ、イキそう。ちょっと――」 「あ、や。だめ、やめないで。タイラント……そこ、すごくいい。あ」 「シェイティ。だめだって、俺」 「ねぇ、イって。早く。ねぇ、中に出して。あ……ん、は。ねぇ、タイラント。タイラント……」 仰け反り、戻り。何度も何度も首を振る。鈴の飾り輪などとっくに足から落ちてしまった。寝台の上、シェイティが腰を振るたびくぐもった音がする。 「シェイティ――」 彼の動きに、タイラントの呼吸が止まる。きつく抱きしめ、奥の奥まで叩きつける。 「あ……!」 タイラントの腹の下、シェイティの物が強く脈動した。それに誘われるよう、タイラントはシェイティの体の奥へと放っていた。 「シェイティ……」 腹の下にとろりとした濁りを感じた。汗にまみれた彼の額を拭えば、唇が開く。そっとくちづけて体を離せば、シェイティが震えた。 「君が――」 好きだよ。最後まで言わせてもらえなかった。 「ちょっと! シェイティ! なにするの!」 これがいま達したばかりの体か、とタイラントは唖然とする。かっと目を見開いた彼は横にずれていたタイラントに飛び掛っていた。 「なにするのはこっちの台詞! ちょっと、あなた。どういうつもりなわけ!?」 「って、なにが!?」 「よくもあそこまで責めてくれたもんだね! 実演するとは言った。あぁ、確かに言ったよ、僕がね。でもあそこまでする!? この、変態!」 「変態って!?」 「なに、言葉の意味? あなたみたいなことする人のこと、変態っていうんだよ!」 「そうじゃなくって! なんで君、いきなり怒ってんだよ!」 「あなた、自分がなにしたかも覚えてないわけ? いまなのに?」 「覚えてるって! 一緒に楽しんだ? けっこう君も気分よく?」 「ほんと、この馬鹿! あそこまでするとは思ってなかったよ、信じらんない。金取ってやろうかな」 ぼそりと言ったシェイティをタイラントは咄嗟に抱きしめる。なにを言っていいかわからなかった。 「あのね、一々こんなことに反応しないで」 「だってさ、その……」 「別に昔の稼業に戻るつもりはないし。戻りたくもないし」 「だったら……」 「もうあなた相手に技術を発揮するのもやめようかな。だって、あなた。すごい変態っぽかったし。いつもはびくびくしながら抱くくせに、なにあれ。性格がおかしいの、人格がだめなの?」 「いや、その!」 「ねぇ、タイラント。やめたほうがいい?」 これが不安そうに言われたのならばタイラントもいかようにも答えられただろう。だがシェイティは花のように笑っていた。 「いえ、その。なんと申し上げましょうか。できれば、またお願いいたしたく、ですね、その」 「ふうん。いやじゃなかったんだ?」 「ていうか、君もけっこう……」 最後まで言わせてもらえなかったけれど、タイラントはシェイティが本気で怒ったのだとは感じなかった。そっと髪をかきあげれば、わずかに染まった頬。 「ね、シェイティ。また、して?」 「いいよ。だったら、やっぱり金取る」 「って、どうしてそうなるんだよ!?」 「だって、僕をあそこまで攻め立てておいて、どういうつもりなの? あそこまで恥かかせて何もないなんて、そんなこと思ってないよね、僕の可愛いちっちゃなタイラント?」 メロール・カロリナが満開の花園ならば、シェイティは深山の可憐な花。いずれにせよ、タイラントにとっては悪魔のように恐ろしい笑顔。否、ように、ではなくそのもの。 「あの、その。お幾らでしょう……」 「この馬鹿。本気でそれを言ったら洒落にならないじゃない」 「だって!」 「いいから、僕の体が金になるんだったら、あなたの歌はなんなの?」 「あ――。でも」 シェイティの肌がタイラントだけのものであるように、タイラントの歌もまた。決して他人には聞かせない、シェイティだけの歌がある。 「いいから、わかってるから。歌って、タイラント」 諍いなど、ただの冗談だというよう、シェイティは横たわったタイラントの胸の上にことりと頭を置いた。 そっと腕で抱えれば、心地良い場所を探して、そして落ち着く。密やかにタイラントは笑い、歌いはじめた。シェイティが眠るまで。眠っても。眠りの中で彼が聞いているような気がして。 |